隠れ許嫁は最終バスで求婚される
秋の豊穣祭の祭囃子が耳元を掠めていく。夏祭りも秋祭りも、モネが「いっきお兄ちゃんと一緒に行く!」って俺を引っ張り出して行ったっけ。
夏祭りで見た花火も、秋祭りで競い合った金魚すくいも、忘れられない思い出だ。庭先の池にはそのときの金魚がいまも悠々自適に泳いでいる。親指程度の大きさだった金魚も十年以上栄養豊富な池で暮らせば鯉顔負けの大きさに成長する。子どもだとばかり思っていたモネだって、もはや立派な女性である。
祭囃子に誘われるように庭へ出る。月明かりに照らされた縁側に腰かければ、遠くで虫の声が重なり合うように響いていた。懐かしさを彷彿させる秋の気配だ。
この庭も、もう何度眺めたことだろう。幼い頃はモネがこの石畳の上でよく転んで泣いていたものだ。それをあやすのが当時の俺の、俺だけの役目だった。
あのとき小さな手で握られた感触が、いまだに掌に残っている気がする。
――けど、おふくろの話を聞いたモネは、きっと不安なんだろう。
当然だ。いきなり“許嫁”なんて言葉を聞かされれば、誰だって戸惑う。許嫁自体はじいさまたちが口にしていたから彼女もさほど驚いているようには見えなかったが、遺産の話が出てきた時点で失敗したと思ってしまった。
夏祭りで見た花火も、秋祭りで競い合った金魚すくいも、忘れられない思い出だ。庭先の池にはそのときの金魚がいまも悠々自適に泳いでいる。親指程度の大きさだった金魚も十年以上栄養豊富な池で暮らせば鯉顔負けの大きさに成長する。子どもだとばかり思っていたモネだって、もはや立派な女性である。
祭囃子に誘われるように庭へ出る。月明かりに照らされた縁側に腰かければ、遠くで虫の声が重なり合うように響いていた。懐かしさを彷彿させる秋の気配だ。
この庭も、もう何度眺めたことだろう。幼い頃はモネがこの石畳の上でよく転んで泣いていたものだ。それをあやすのが当時の俺の、俺だけの役目だった。
あのとき小さな手で握られた感触が、いまだに掌に残っている気がする。
――けど、おふくろの話を聞いたモネは、きっと不安なんだろう。
当然だ。いきなり“許嫁”なんて言葉を聞かされれば、誰だって戸惑う。許嫁自体はじいさまたちが口にしていたから彼女もさほど驚いているようには見えなかったが、遺産の話が出てきた時点で失敗したと思ってしまった。