隠れ許嫁は最終バスで求婚される
「せっかくだから、季節外れの花火でもするか」
「え」
庭の片隅に置かれた小さな箱を開けると、色とりどりの手持ち花火が並んでいる。湿気っていなければまだ使えるはずだ。
俺が箱のなかから未開封の手持ち花火を差し出せば、モネが嬉しそうにこくりと頷く。
「懐かしい……ちいさいとき、ここでよく花火したよね」
「ああ。勝手にマッチ使うなっておふくろに怒られて、親父が花火の火をつけてくれたっけ」
「もうオトナだから自分で着火できるね」
「だな」
笑いながら火を灯すと、ぱちぱちと光の粒が散った。
燃えさしの火が風に揺れ、煙が月明かりの中に溶けていく。
その一瞬一瞬が、過ぎ去る季節や想いを静かに送り出しているように儚げに煌めく。
光の軌跡を見つめながら、モネが呟く。
「花火って、終わる瞬間がいちばんきれいだと思わない?」
「……そうかもな。でも、終わるたびに次があるから、こうしてモネが望むなら、俺がいくらでも火を灯してやるよ」
そうして袋のなかに入っていた手持ち花火に火をつけてささやかな宴を開けば、色とりどりの光炎と煙に包まれた彼女も楽しそうに歓声を上げた。
「まるでふたりきりの花火大会みたい……」
花火が消えたあと、ふたりの指先が自然に結びついて――そのまま長い口づけへと変化したのは、言うまでもない。