隠れ許嫁は最終バスで求婚される

   * * *


 あの夜から、季節はゆっくりゆっくりと巡っていった。
 式場の下見や両家の顔合わせ、仕事に介護に忙しい日々の中でも、モネと過ごす時間だけは不思議なほど穏やかだった。
 準備を重ねるごとに、夢だった結婚式が少しずつ現実の形を帯びていく。

 そして――最終バスで彼女に求婚したあの夜から半年。
 春の訪れとともに、その日はやって来た。
 花の香りに包まれた朝、光のなかで迎えた新しい季節。
 白いドレスに袖を通した彼女の、柔らかい声が風とともに届く。

「――一季さん、今日からあたし、黒戸百寧になります」

 クロード・モネって印象派を代表する画家の名前だね、と感慨深そうに呟く彼女を見てると、彼女こそ俺の光だと痛感する。
 今日は結婚式。
 光の魔術師と呼ばれた画家のように、俺たちは色とりどりの未来を彩っていく――……。
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