隠れ許嫁は最終バスで求婚される

 扉の向こうから親族や友人たちの話し声が聞こえてきた。小さな頃から見守ってくれた町の人たちの笑い声、黒戸家の親族が丁寧に頭を下げて応えている声、会社の同僚たちと親戚の甥っ子たちのはしゃぎ声。すべてがあたしたちへの福音のように、奏でられている。
 ひとりじゃない。誰かと繋がって、生きていけるという幸せを胸に、あたしは黒戸百寧になる。

 扉が開く。

 盛大な拍手とともに花の香りが風にのって流れ込んできた。
 白いベールの向こうで、にじむ光の先。まっすぐ前を見れば、そこに一季さんが待ちわびていたかのように立っている。

「――一季さん、今日からあたし、黒戸百寧になります」

 あの夜の庭で花火をしながら誓ったように。
 今日、この場所で、改めてその約束を未来に変えよう。
 母親から一季さんへバトンタッチされたあたしは彼の隣で愛を誓う。
 拍手の音が遠のいて、世界がふたりだけになったような錯覚に陥りながら、指輪交換をした。
 隣にいる彼の指先が、そっとわたしの手を包み込む。
 そのぬくもりに、あの日の夜風や花火の光がよみがえる。これが、わたしの居場所なんだと心の底から思えた。
 白い光のなか、彼と目を合わせて、そっと微笑む。
 未来はきっと、優しくて、まぶしい。
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