隠れ許嫁は最終バスで求婚される

「懐かしいな。小さかったモネと夏祭りに花火を見たの」
「やだ、忘れてたのに」
「忘れられるわけないだろ。俺はあの頃からモネのこと意識してたんだから」

 隣で一季さんが小さく笑う。打ち上げ花火の音にびっくりして泣き出した頃のはなしをされて、あたしは赤面する。
 彼はあの頃から、あたしが許嫁であることを知っていて、あたしの気持ちを尊重して隠し続けていたのだ。もっと早く教えてくれても良かったのに。

「……でも、今日の方が、ずっときれいだな」
「どうして?」

 夏祭りに間近で見た花火と比べたら、今日の花火は遠くて豆粒みたいなのに、とあたしが首を傾げれば、当然のように彼は応える。

「豆粒だって構わないさ。だって、いまは名実ともにモネと一緒にいるのだから」

 そう言って、一季さんは照れくさそうに笑った。
 あの頃と変わらない笑い方。けれど、その眼差しには迷いがない。
 私の手をそっと包み込むてのひらのぬくもりが、心の奥まで染みていく。
< 52 / 53 >

この作品をシェア

pagetop