隠れ許嫁は最終バスで求婚される

「……ねえ、一季さん」
「ん?」

 夜風が髪をすべらせる。
 次の花火が上がり、ふたりの影が草の上に重なった。
 それは、まるでこの世界にふたりだけがいるような、静かな光景だった。

「これから先も、ちゃんと隣にいてくれる?」
「当たり前じゃないか。俺はもう逃げないよ」

 彼の言葉が、花火の音よりもはっきりと耳元で紡がれる。
 夜空いっぱいに咲いた花火が光の雨のように降りそそぐ中で、あたしは小さく目を閉じた。
 風の匂いも、音も、温度も、全部が優しすぎて、口づけひとつで涙が出そうになった。

 ――ああ、これが幸せっていうんだ。

 そっと目を開けると、一季さんがすぐ隣にいて、静かに微笑んでいた。
 その笑顔を見て、あたしは頷く――このひとと、生きていくのだと。
「もう一度、キスしてもいいか?」

 花火の音が夜空を震わせた後に、静寂が戻ってきた。
 暗闇の中で、残り火のように光る一季さんの瞳が、まっすぐにあたしを見つめている。
 その言葉とほぼ同時に、柔らかくて甘い唇が触れた。
 世界が一瞬だけ、光に包まれて――夜空の彼方で、最後の花火が静かに散った。



 最終バスで再会したときからふたたび動き出したあたしの初恋は、永遠の愛へと形を変えて、未来へと走り出す――……。


 ――fin.
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