お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
「どんな話?」
「俺、母さんの補佐で、普段は富永(とみなが)のおばちゃんと副社長室に居るだろ?」
「うん、そうだったよね。身内に囲まれてるみたいだって言ってたもんね」
響が〝富永のおばちゃん〞と呼ぶ、副社長秘書の富永 逸子(とみなが いつこ)さんは、社会人になったばかりの息子さんがいるママさんで、副社長の幹子さんとは『幹(みき)ちゃん』『いっちゃん』と名前で呼び合うほど個人的に長い付き合いなのだそう。
だから響の事も「我が子みたいなもんよ、うちの子の兄ちゃんみたいでさ」と未だに子ども扱いで、血縁関係はないけれど、響も親戚のおばちゃんの様に慕っているの。
「それがさ、近く秘書見習いが一人来るんだよ」
「秘書見習い?この時期って珍しくない?」
「あぁ。ワケは知らないけど急な話だったらしい。それが3月のほぼ1か月、おばちゃんに張り付いての研修だって」
「そっか。響はその人に会ったの?」
「いや、俺はまだ」
「どんな人なんだろうね」
「若い女だって。23って言ってたかな」
「え、そうなんだ。…可愛い人だったらやだなぁ…」
具体的な嫉妬とかこれといった理由があったわけではないけど、何となく口からついて出ちゃった。
「ふ、俺の恋人以上に可愛いヤツなんていないけどな?」
なんて言いながら響は大きな手のひらで私の頭をワシワシと撫でてくれた。
「エヘヘ、ありがと。…それで、何が厄介なの?若い女性だから?」
少し乱れた髪の毛を手で直しながら問う。
「あぁ、それなんだけど……実は母さんから、俺達が付き合ってる事を内緒にしてくれって言われて」
「内緒に?…って誰に対して?」
「その見習いの女に知られたくないらしいんだよ、俺に彼女がいる事を」
「何でまた…」
「今日は時間がなくて理由までは聞けてないんだけど、何か会社では言いにくいみたいだったな。理由を聞いた時、おばちゃんと顔を見合わせてたし」
「そう…」
「けど、奈都子を気に入ってる母さんがあえてそう言うってことは、そうした方がいいんだろうな」
「うん…」
「だから…せっかく一緒に暮らし始めたばっかですげぇ不本意だけど、その研修が終わるまで俺は実家から通勤しようと思って」
「そっかぁ…」
私達が付き合っている事は葵と爽維くんしか知らないし、今は職場もまだ別だから内緒にしておくことに不都合はないと思う。
でも…
急な訳アリ雇用で…
若い女性で…
交際を隠す必要があって…
それが副社長指示で…
…と、これらのワードからは良くない方向にしか考えられず、心の中にもやもやと暗雲が広がっていくのがわかった。