お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
氷の入ったグラスにアイスコーヒーを注ぎ、そこへ『たからばな』の大吟醸を少し入れると、ガムシロップを添えて響の前にそっと置いた。

「お、うまそ。サンキュ」

それと同じものを作り、私も自分のグラスにガムシロップを入れて、マドラーで軽くステアする。

「いただきまーす。…ん、おいし!」
「うん、うまい」

少しの間、日本酒とコーヒーの絶妙なカクテルを二人で楽しむと、「じゃあ話すか」と響が口火を切った。

「名前は、川嶋(かわしま) アイミ、さん。12月に中途採用で千葉の支店に配属。…ってのは昨日の電話でも話した通りな」
「うん」

川嶋さん、か…
昨日、その名字を聞いて、それまですっかり忘れてたのに、昔の嫌な出来事を思い出してしまった。

「で、これから話すのは今日の帰り際に母さんから聞いた話だけど。川嶋さん、うちのホールディングスの役員の娘だってさ」

「ホールディングスの…。それで、その川嶋さんてどんな人なの?」

「まだ数日しか見てないし、同じ部屋に居るとはいえ俺は仕事が違うからあまり言葉も交わしてないけど、とりあえず真面目にやってるみたいだな。言葉遣いとか所作とかもちゃんとしてるっぽいし」

「そう。…あの…」
「ん?」
「あっ……その……見た目って…どんな感じ?…可愛い?」

「あぁ、見た目か。…そうだな、可愛いんじゃねぇかな」

という言葉に、一瞬、心臓にビリッと痺れる様な痛みが走った。
だって、響が私の前で普通に女性を褒めるなんて初めてだったから。

って、え!? 私、こんなに狭量な弱い女じゃなかったよね!?

でも…なんか気になっちゃうんだもん…

モヤモヤしてる胸の辺りのブラウスをぎゅ、と握ると、続けて響が言った。

「外見とか俺は気にも留めてなかったけど、社内で川嶋さんを見た本社の男らがそう言ってるから」

…ん?
てことは…
「…響は可愛いって思ってないの?」
「あぁ、特には。俺は〝そこらにいそうな若い女〞みたいなイメージでしかないけど」
「ほ、ほんとに…?」

なんだ…よかったぁ…
ようやく手の力が抜け、ほっ…と息が漏れた。

「もしかして、可愛いかったら俺が心変わりするかもとか心配してた?」

「ハッ!? いやそんなことは」

「…そうなんだな。…ハァ……奈都子はまだ分かってねぇみてぇだな、俺がどんだけ奈都子を愛してるのか…」

「え」

「まぁいい。明日は何の予定もない土曜だしな」

ギク。
その言い方は…

「俺のこの想いが奈都子のカラダの隅々に行き渡るのを実感させるまで寝かせねぇからな」

ひぇー!やっぱり!
「いや、そこまでしなくても大丈夫。ちゃんと分かってるから」

って言ってるのに、何でバックハグからブラウスのボタンを外すかな?

「じゃ、じゃあ、その前にお風呂入ろ?お風呂。ね?」
「や」

「いや…『や』じゃなくて……ほら、一日仕事したら汗もかくし身体も髪も汚れてるだろうしさ」
「平気」

「いやいや、汚いから…」
「むしろありのままの奈都子を堪能できるのは俺としては幸せかな」

「ヒャー!」

「ふ、真っ赤な奈都子、可愛い」
なんて言いながらブラウスを肩だけはだけさせると、うなじに柔らかい唇の感触、そしてチクリとした痛みを感じた。

「俺から奈都子へのお守り。奈都子に男が近寄らないように」
「ふふ、それなら心配いらないよ」

「いや、奈都子はモテるからな?…あー…マジで早く『奈都子は俺の妻です』って公言してぇ」
そう言いながら、ブラウスを腕から抜くと、キャミソールの下のブラのホックを外した。

「ここで脱がさなくても…」
「ここで抱くんだからここで脱がさないとだろ?」

うひゃあ!

久しぶりにケモノ化する響にあたふたしつつも、実はちょっと嬉しかったりする。

そうやって私を求めることで、安心を与えてくれるんだもんね。

「響、ありがとう」
「俺は奈都子を愛してるだけだよ」
「…うん、私も愛してる…」



─きっと私達は大丈夫。

どんなに素敵な女性が響の前に現れても、私達は大丈夫。


響に熱く抱かれながら、そう自分に言い聞かせた。

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