お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
店内を軽く見回したカンジでは俺達の知り合いはいないようだし、時間の許す限りここで奈都子補給に勤しむとするか。

「でもお母さん、お一人でお昼に行ったんでしょ?悪いことしちゃったな…」
「あぁ、それなんだけど実はさ…」

ランチのオーダーを終えると、さっきの出来事を奈都子に話した。

「…そう、川嶋さんも来るんだ……何か緊張するな」
「けどまぁ、ただ〝いるだけ〞だから」
「あっ、それなら響とも同僚として話さないとだよね」
「そうなんだよなー、ったく…」

「どんな感じだったっけ?告白されてからずっと響が甘くて優しいから、言い合ってた頃の感じで言えないかも、ふふっ」
「だよな、俺、もう奈都子に『ボケナス子』とか言えねぇよ」
「あはは!そうだよね、今は全然聞かないもんね」

「けど、思えば『ボケナス子』ってマジでひどい言葉だよな…今さらだけど、ごめん」
「ううん、あの頃は響だけの私の愛称みたいに思ってたからちょっと嬉しかったんだ。表向きはちょっと不満げに見せてたけどね。ほら、喜んでると響にも他の人達にも気持ちがバレちゃいそうじゃない?」

なんて、奈都子は俺の罪悪感を薄める言い方をしてくれた。
…やっぱ優しいよな、奈都子は。

「ありがと…。今だから言うけど、俺…研修の頃からずっと〝奈都子〞って名前で呼びたかったんだよ」
「そんなに前から?」

「うん。…けど、俺がいきなり名前呼びして奈都子に嫌がられたらどうしようとか、回りの奴らに俺が奈都子を好きだって気付かれるかも…とか考えるとなかなか言い出せなくて」
「うん、そういうのあるよね、分かる」

「で、いつだったか奈都子が『昔〝ほうげなつこ〞を〝ボーケナス子〞って聞き間違いした子がいる』って笑い話、しただろ?」
「アハッ、そうだね」

「それに便乗して〝ボケナス子〞って軽く言ってみたら奈都子がすげぇ笑って」
「ふふ、そうそう。なんかツボったんだよね、響にボソッて言われたのが」

「で、それを勝手に〝感触は悪くない〞と思って言い続けてさ」
「うん」

「…それで〝ナス子〞って言いながら心の中では〝奈都子〞って呼んでて。…でも仲良くなるにつれ〝奈都子〞って呼びたくなって……あの焼肉に行った辺りから、少しずつ〝奈都子〞って小出しに言い始めて」

「………」

「あっ……ごめん…そもそも無神経な呼び名なのに…理由もやってることもキショいな、俺…」

くりっとした可愛い目を見開き俺を見たまま何も反応を返さない奈都子に、マズった!と思っても後の祭り。
ヤベェ…と内心冷や汗だらだらで頬杖をついたまま窓の外に視線を移した。
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