お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
「じゃ、カミヅカに行くか」
「そうだね。…はぁ…選んだのでホントに大丈夫かな…」
「大丈夫だって。俺もカタログで全部見たけど、どれもセンスよかったし、あれならきっとみんな気分良く仕事できるはずだよ」
「…だといいなぁ」
と、まだ少し微妙な顔をする奈都子を安心させたくなる。
「今、奈都子を抱き締めるから」
「えぇ!? それはダメ!ここ外だよ!? それに誰が見てるか…」
「分かってる。…だから、俺の強い心で奈都子の不安な心を抱き締める」
「響…」
「本当は生身の身体を抱き締めたいけど、それは週末な」
「ふふ、…ありがとう」
そんな話をしながら九段下の駅に差し掛かったところで、俺の仕事用のスマホに着信があった。
「母さんかな……と思ったら違った。…てか誰だ?この番号…」
「出てみたら?お仕事関係でしょ?」
「そうだな……はい、桜賀です」
奈都子にも言われたし、とりあえず出てみることにしたのだけど、聞こえてきたのは意外な人の名前だった。
『あのっ、響さん、すみません、川嶋です』
それは奈都子にも聞こえたらしく、俺達は自然と顔を見合わせた。
「…あぁ、川嶋さんですか。…どうしました?」
要らぬ心配をかけたくなくて、人の目も気にせず奈都子の肩を優しく抱き寄せた。
『あの、私一人でお昼に出たんですけど、カミヅカ商会さんの最寄駅からの行き方がわからなくて…』
「そうでしたか。でしたら副社長もじきに最寄駅に着くでしょうから連絡しておきますよ」
『あっ…いえ、あの、副社長は先に行くと仰ってたので…申し訳ないのですが、響さん…一緒に行ってもらえませんか?』
「………………」
この俺の無言は、様々な不満を叫んでぶちまけてしまいたい俺と理性を保とうとする俺が葛藤している表れだと奈都子は分かってくれるだろうか。
『あの、響さん…?』
はぁ…
「…あぁ、すみません。…分かりました。では私も最寄駅の出口に着いたら連絡しますので、それまで待ってもらえますか」
『ありがとうございます!はい、それではお待ちしています!』
「では後ほど。失礼します」
はぁ…
ただでさえ足りてない俺の奈都子補給タイムが更に減るとか…
…ったく何なんだよ…
「あー…っ、もー!」
頭をガシガシガシ!と掻きながら、そこへしゃがみこんだ。
「ちょっ…響、大丈夫!? どこか具合悪いの!?」
「奈都子不足」
「……はい?」
「はぁ……それじゃ行くか」
よっこらせ、と重い腰を上げるとまた手を繋ぎ、正直な俺の気持ちを話しながら駅へと向かった。