お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
確認する品物がたくさんあるからか、会議室の様な広めのお部屋に通されたのだけど、担当の東野(ひがしの)専務が少し遅れるとのことで私達の雑談が始まった。


「三人揃ってタクシーで来たの?」
「あぁ、最寄り駅からね。川嶋さんが少し足を痛めたらしくて」
「あら、大丈夫?お医者様へ行った方がいいかしら」
「あ、いえ、そこまでではないので大丈夫です、すみません」

そこで少しの間を置いた後。
「そういえば、奈都子も足くじいたよな、昔」
と響がニヤニヤしながら私に話を振ってきた。

「え?いつの話?」
「支店に配属になって半年後だったか、外部研修に一緒に出かけただろ?その時、ヒールが溝にはまってさ」
「あー…あったね、そんなこと…」

ヒールが挟まって抜けなくて、その拍子に転んで足首をやっちゃったアレね。
これくらい平気だと思ってたらみるみる痛くなってきたんだっけ。

あぁ…赤っ恥な黒歴史なのに、なんで川嶋さんの前で話すかなぁ、もう…

「あの時は大ッ変お世話になりました!」

ヤケクソで座ったままブン!と頭を下げると「マジで大ッ変お世話したよな。ククッ」なんて響は笑いを抑えて言う。
ふふ、何だか支店で同僚してたの頃の会話みたい。

「お世話って、何があったんですか?」
川嶋さんが少し首を傾げた愛くるしい仕草で響に問う。

「奈都子が出先からの帰りに足をくじいたんだけど、平気だっつって最寄駅まで歩こうとして。けど結局俺が駅までおんぶしたんだよな、奈都子」
「…そうでしたね」

「うそー!? 女の子をおんぶしたんですか!? お姫様抱っこじゃなくて、おんぶ!?」

「あぁ。思いのほか駅まで遠かったし、足の腫れも見えてきて。なのに俺の手を借りずにまだ一人で歩こうとするから見てらんなくておんぶしたんだよ。まぁそれからも治るまでだいぶお世話したよな、奈都子」
「う……その節はすみませんでしたね」
「ハハ、まぁお礼もしてもらったしな」

「あっ、だから私には恥ずかしく無いようにタクシーを使ったんですか?」

「え…?あぁ…無理させるわけにもいかないし」

「そうだったんですね、お気遣いありがとうございます!嬉しいです!」

「いや。…で、奈都子はそれ以来、細いヒールを履かなくなったんだよな」
「なんでそれ知ってるの!?」
「そのくらい分かるっての」
「あ、そう…細いヒールだと目立ってたのかな…」

などと話していると、開いていた会議室のドアをノックする音と共に「失礼します」と一人の男性が入ってきた。
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