お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~

窓口研修 、2日目~ざわつく心に巣食う影

研修2日目の今日は、本社会議室を出て、実際のお客様を迎えるオフィスへ移動!
と言っても本社ビルの1階の空いたオフィスを外からも入れる様に改装したお部屋なんだけどね。

「うわぁ、素敵!」
「玄関側はガラス張りだから明るいね~」
「暖かみがあっていいわぁ」
「うんうん、居心地良さそう」
「見てみて!バックヤードもすごいの!」
「デスクに置いてあるステーショナリーも素敵よ~。真面目すぎず可愛すぎずな〝くすみパステルカラー〞で統一とか、センス良すぎよね!」

オフィス内を見回りながら、スタッフ達が嬉しそうに口々に言うのを見て、やっと私も肩の荷が降りたように思えた。


「このお客様の椅子、とってもいいわねえ。座り心地がいいし、ホッとするのよ。何でかしらねえ」

埼玉第2支店出身のベテラン保険外交員の芝田(しばた)さんが、ベージュ色の椅子に腰掛け、木材でできた肘掛けを触りながら「何でかしらねえ、不思議だわあ。うちにも揃えたいわねえ」と何度も言う。

ふふ、そこまで気に入ってくれるなんて、これにして良かったな。と嬉しく思っていると、私の後ろから優しい響の声が聞こえてきた。

「それ、奈都子が選んだんですよ。お客様が安心して相談できるようにと、色も椅子の種類もこだわって」

「あら!やっぱりい?そうじゃないかと思ったのよお!奈都子ちゃんの感じがするもの!」
「ほんとほんと〝奈都子ちゃんの感じ〞よね、芝田さん、上手いこと言うわー」
なんてベテランさん達の言葉が嬉しいな、ふふっ。

「それと、皆さんが座る椅子もそうですし、文具やオフィス内のファニチャーからバックヤードの細々とした物まで奈都子が選び抜いた品々ですから、きっと使いやすくて、ここで働く皆さんにもお客様にも喜んで頂けると思いますよ」

響の言葉を聞いて「どれどれ」と、スタッフ用の椅子に葵が座った。

「あっ、ほんと!うちらの椅子もフィット感があって気持ちいいわ!これなら長いこと座ってても疲れにくいんじゃない?さっすがナツコ!」

親指を立てて「グッジョ~ブ!」と葵が言うと、他の皆さんからは「ありがとうございます!」という言葉と拍手が湧いた。

いやいやいや…と恐れ多くて謙遜していたのだけど、その時にちらっと視界に入った川嶋さんの面白くなさそうな表情に、さすがの私も心に引っ掛かる嫌なものを感じた。

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