お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
「〝藍の間〞は2階の大広間です。じゃ、自分はホールに入って様子を伺ってるんで」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」

エレベーターの中で簡単に打ち合わせをしておいたため、2階に着くと青柳さんはササッと先にエレベーターを降り、ホールへ向かった。

俺は一呼吸置いてからフロアに降りると、すぐに「響さぁん!こっち!」と声が聞こえ、一気にゲンナリ。

「こっちの時間もあるし早めにしたいのだが」
と言うと、いきなり腕を掴まれ「こっちですッ」と川嶋がホールの扉を勢いよく開けた。

そして、会場内の大勢の人達が一斉にこちらを向くのが見えたその時、川嶋が叫んだ。

「この人がぁ、私の婚約者のぉ、桜賀 響さんでぇす!」

「っ、はぁ !?」

「ねっ、響さんも前に出てご挨拶しましょ?あ、その前にパパとママを紹介するね!」

いきなりの婚約者呼ばわりに呆気に取られていたが、ふと、今の言葉はおかしいだろ、と気付いた。

〝婚約者〞をこの場で両親に紹介って、ヘンだと思わないのか?

そう不思議に思っていると、社員達も俺の態度に疑問を持ったのか、こちらを見る表情が祝福の笑顔から、あぁ…という苦笑いに変わっていった。
もしかしたら社員達は川嶋がどんな奴かわかってるのかもな。


さて…どのタイミングで否定してやろうか、と考えていたら、川嶋の両親とおぼしき二人がやって来た。

「おお、君が響くんか。仕事でもお世話になったそうだね。娘から婚約したと聞いて早く会ってみたいと思っておったが、娘が響くんは忙しいから今日紹介すると言われてな、だから楽しみにしていたんだよ」

この人が川嶋の父親で、川八酒販の社長…
と顔を覚えたところで、いえ、違います、と言おうとしたのだけど、矢継ぎ早に母親が話し掛けてきた。

「響くん…まぁ……誠人(まこと)さんにほんとそっくりだわ…」

それでこの人が川嶋の母親…
そして、ホールディングスの専務…ねぇ。
この、人を値踏みするようなねっとりとした視線を向ける人で、信頼できる人に俺はまだ会ったことがないんだが。

ていうか〝誠人さん〞て…
「父をご存知で?」

「えぇ、もちろんよ。あなたの母親とは昔の同期ですもの」

「あぁ、そうみたいですね」

「さあさあ、響くんも一緒に飲もうじゃないか!それにその格好、いいじゃないか、このままアイミと結婚式を挙げたらいいんじゃないか?ああ、嬉しくて涙が出そうだなぁ…」
「じゃあ響さん、もう結婚しちゃう?ウフフ」


はぁ……
もう、これ以上は無理だな。

チラッとドリンクコーナーにいる青柳くんを見ると、彼は俺を見ていたらしく、目が合うとコクリと頷いた。

…じゃあバラすとしよう。
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