お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
「すいませんが俺、川嶋さんと婚約どころか付き合ってもいませんし、俺はかねてからお付き合いしていた奈都子という女性と結婚しています」

「今ここに来たのも、仕事でお世話になったから親御さんが俺に挨拶したいと川嶋さんが言うので伺ったんです」

「そもそも最初に、時間もないし挨拶は遠慮すると断ったのに、来ないと俺の友人の挙式に乗り込むかもしれないと脅されたのでやむなく来た、というのが実のところですけど」

そう言葉を挟ませずに言い切ると、川嶋社長は驚きを隠さなかった。

「なっ……アイミ、お前脅したって!?…いや、それより、響くんと付き合ってもいないのに、婚約者だと嘘を言い張ってたのか?」

すると川嶋が「だってぇ」と口を尖らせた。

「絶対に私の方がかわいいもん!あっ、そうだ響さん、ほら、私、大きな酒販会社の社長の娘なの!」

「それが何か」

「間宮さんに聞いたけど、奈都子さんの実家って田舎にある酒屋さんなんでしょ?いいの?うちは大手の卸問屋なんだよ?」
「そうよ、響くん。うちに楯突くと奈都子さんのご実家にも影響が及ぶんじゃなくて…?」

「は?」

「田舎の酒屋って、せいぜいディスカウントストアみたいなお店なんでしょう?薄利多売じゃないとやっていけないところが仕入れを断たれたら大変じゃない」

「ですから何が言いたいんですか?」

「だからぁ、私と結婚すればみーんな幸せ、ってコト!」
「響くんも経営陣の副社長のご子息ならわかるんじゃないかしら。それにね、普通の家庭の娘よりも、私達の様な両親を持つアイミと結婚した方が生活も潤うんじゃない?」

「奈都子が普通の家庭の娘?」

「ええ。そりゃあ響くんは副社長の息子さんではあるけれど…やっぱり妻となる人の親の力も…ねぇ?」

「そうですか、親の力、ね…」

…ではここで、こちらの〝伝家の宝刀〞を抜くとするか。
ふ、シャキーンて音が聞こえてきそうだな。


「川嶋さん。奈都子の名前、フルネームで覚えてますか?」

「えー?奈都子さんのフルネーム…?えっと…覚えてないけど名字が珍しかったような…」

「もう『桜賀』姓になりましたけど、旧姓は『宝花 奈都子』ですよ。川嶋社長はご存じですよね、あの『たからばな酒造』のお嬢様の名前ですから。…あぁそうだ。これもお伝えしておきましょうか。私と奈都子もこの後すぐ、このホテルで結婚式をするんですよ、友人夫婦と一緒に」


そうなんだよな、奈都子はもう『桜賀 奈都子』なんだよな…
俺はもう奈都子の旦那なんだよな…
結婚式だってもうすぐなんだよな…

…ヤベ、また顔が緩んじまう。にやにや。
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