お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
「なっ…何だってぇ!?『たからばな』さんとこの奈都子さんだってぇえ!? …アイミ…お前は何てことを…!」

やっぱり〝伝家の宝刀〞だったな、川嶋社長のこの慌てようは。

「えー?奈都子さん家ってディスカウントストアの雇われ店長じゃないの?」

「バカ!あの『たからばな酒造』だぞ!?」

「やだぁ、パパってば。『たからばな酒造』って名前くらいは聞いたことあるけど田舎にあるちっちゃいトコじゃん。そんなのと関係を切ったって、どってことないって!」

「バ…ッ、バカヤロウ!お前はウチの仕事を知らんから!ウチは『たからばな』さんあっての川八なんだぞ!…あああ、響くんに大変無礼を働いてしまって…奈都子さんにもなんとお詫びしたらよいのか…あああ…」

と頭を抱えた川嶋社長が、ふと顔を上げた。

「響くん、これから結婚式をするって言ったかい…?」

「えぇ、この後12時から、ラピス館の5階大ホール『瑠璃の間』で、奈都子と私、そして、友人夫婦と合同で結婚式を行います。あぁ、ちなみにですが、その友人は『たからばな酒造』にお勤めの楢橋さんご夫婦の娘の葵さんなんですけど、楢橋さんはご存知ですか?」

「おおぉ!もちろんですとも!そうですか、楢橋さんとこの葵さんもご結婚で……ということは当然、宝花さんと楢橋さん両ご夫妻もここにいらして…」

「えぇ、ホテルにはもうお付きのはずですよ」

「こっ…こうしちゃおれん!ご挨拶を!…おぅい!中山さんと津田くん!いるかね~」

そう会場内に声を張り上げると「はい!」「ここに!」と声が上がり、すぐに男女二人が彼の元に駆けつけた。

「ああ、すまんが中山さん、津田くん、大至急、お二組の御祝いと、あと手土産も調達してきてくれんか。聞いてたかも知れんが『たからばな』さんの宝花さんの娘さんと楢橋さんの娘さんが、これからこのホテルで結婚式をされるそうでな」

「はい、お話は聞いていました。『たからばな』さんのお嬢様の奈都子さんですよね。楢橋さんのお嬢様もご一緒とは、それはおめでたいですね!」

「せっかくの労いの会だというのに仕事をお願いして申し訳ないが…1、2時間で頼めるだろうか」

「とんでもない!何を仰いますか社長!一度しかない奈都子さん達のご結婚のお祝いに携われるなんて身に余る幸せですよ!早速、百貨店の外商さんと相談して素敵な御祝いのお品をご用意いたします!」
「そうですよ、誠に光栄なことですから喜んで準備させて頂きます!僕達にお任せ下さい!」

どうやら彼らも奈都子を知ってるらしく、俺に「ご結婚おめでとうございます!」「奈都子さんを射止められたなんて、さすがです!お幸せに!」と笑顔で祝福下さると、カバンを持って颯爽とホールを後にした。

そして、それを見届けた川嶋社長が会場前方にある低いステージに上がり、社員達へ明るく話し始めた。

「さ、今日は年に一度の謝恩会だ!ウチで働いてくれている皆さんの頑張りに、そして、皆さんを支えて下さるご家族の皆さんに、感謝の気持ちを存分に込めて美味しいものをたくさん用意させてもらったから、時間の許す限り、飲んで、食べて、楽しんでくれな!飲み物も好きなだけ頼んでくれていいからな!食事代は会社持ちだが、飲み物は全部私のポケットマネーから出すからな、私に払わせることで日頃の鬱憤を晴らして、それでまた共に頑張ろう!」

その快活で太っ腹な発言に会場がワアァ!と沸き上がる。
…なるほど、確かに南さんも言ってた通りの人格者の様だ。この人の下でなら働く気も起きるよな。

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