お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
「…俺、子供の頃に病気で2年ダブったって話しただろ?」
不意に桜賀が自分の事を話し始めた。
「うん…入院と療養してたんだよね」
「あぁ。体力が戻ってから小学校に復学したんだけど、入院中はろくに勉強できなかったから、入院する時の学年からになったんだよ。だから同級生って2つ下で」
「うん」
「…小学校の2年の違いって結構でかくてさ……気持ち的に、同級生で友達っつうか普通に対等に話せる人がいなくて」
「…うん」
「気付いたら、相手の顔色を見て物事を考えて、言葉を出すようになってた。…あぁ、相手に合わせるとか言いなりになるんじゃなくて、本音を出さないっつうか、上辺だけの付き合いっつうか」
「…うん」
「それが中学、高校と続いたんだけど、大学でできた男友達と話すようになって、やっとそいつには気負わずに話せるようになったんだ」
「そうなんだ。それは良かったね」
「うん。…そいつ、瀬尾(せお)っていうんだけど。瀬尾は大学受験で2浪してるから、同じ学年で同い年なんだよ。年齢的なのもあったけど、瀬尾が腹を割って話してくるから、俺も話せるようになってさ」
「本当にいい人と巡りあったんだね。今もよく会ったり遊んだりしてるの?」
「それがさ…瀬尾のやつ、大学の4年の時、帰省した時に遊びに行った地元の海で溺れてさ」
「えっ…」
「あぁ、生きてるよ、すげぇ元気。ただ、体の一部に麻痺が残ってて、脚とか自由に動かせないとこがあってさ。だからなかなか会って遊んだりはできねぇけど」
ほっ……「良かった、生きてて…」
せっかくできた大事なお友達だもんね。
「ありがとな。…ま、少し体が不自由なとこ以外は至って普通だよ。思考もはっきりしてるし、普通に話せるしな。3年前に地元で幼馴染みと結婚して、今は自宅兼事務所で仕事してる」
「そっかぁ……ほんとに良かった…」
「でさ、俺にとって、瀬尾と同じ様に話せるのが奈都子なんだよ」
「え!」
ここでいきなり私の名前が出てきたものだから、びっくりしちゃった。
「ここに入社して…研修で奈都子と話すようになってから気づいたんだ。奈都子には思ったこと何でも言えてる、って。…それがすげぇ気持ちよかったし嬉しかったんだ。…けど、奈都子は女だからさ、あまり馴れ馴れしくするとウザがられると思ったし、あとはまぁ、それまで男の瀬尾としか話してないのもあって……ついあーゆうノリっつうか言い方になっちまって…」
「そうなんだ、別にウザいだなんて思わないけど……そっか、それで女扱いされてない様に思えてたんだね。…うん、わかった」
初めて聞いた桜賀の過去のお話で、私に対する態度の理由に納得した。
…のだけど、ここから少し空気が変わっていったんだ…