お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~

「あっ!」

バッシャア!

「キャッ」
「あーっ!」


9月23日、矢野さんの出産激励会、当日。

集合時間より早目に着き、会場となるレストランに足を踏み入れるや否や、私は入口付近にいた田巻さんにいきなりグラスに入ったワインを浴びせられてしまった。

「ち…ちょっと田巻さん!何やってんですか!あー……ナツコ、びっしょびしょじゃん……しかも赤ワインなんてシミになるってのに!」

「やだ、ごめんなさい!段差に躓いちゃって…」

「ってか何でここでワインなんて持ってるんですか!出入口で危ないですよ!」

「…ごめんなさい……このお店、友達がやってて、貸切にしてもらったからお手伝いしようと思って…」

言った側から田巻さんはしくしく泣き出し、そこへ保科さんがやってきた。

「ちょっと楢橋さん、紗莉だってわざとやったわけじゃないんだから、そんなに捲し立てないでよ」
「じゃあナツコのこの状態はどうしろと?このままでいろと?それとも帰れと?保科さん、どうなんです?」

「葵、いいから…」
保科さんに詰め寄る葵をなだめていると、ルナさんが申し訳なさそうに私の元へ来た。

「ごめんね、奈都子ちゃん……クリーニング代は出すからね。でもどうしようか……一度おうちに帰って着替えてくる?」


そう気遣うようにルナさんは言うけど、ここって上野ですよ?
多摩地域にある家に帰ってまた来るって、往復で2時間以上、着替えてクリーニングに出してからなんて、結局3時間はかかるのに。


あ…そっか、それが目的…

最初から呼ばないよりも、汚して、帰らせて、来させない様にしたかったんだ…

はぁ……ここまでするのか……

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