お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
はー……ちょっと休憩しよ。
今日はお客様との約束もないから、掃除を命じられた後は、オフィスでお客様からの問い合わせ待機をしつつ、お客様から相談された内容のプランニング。
隣の席の葵はFP(ファイナンシャルプランニング技能士)の勉強をしてるみたい。
「給湯室に行ってくるけど、葵もお湯いる?」
マグカップを持って小さい声で言うと、葵が半分くらい入ったコーヒーのペットボトルを軽く振った。
「あたしはコレがあるから大丈夫。ありがと」
葵に「りょーかい」と返事をすると、私はマグカップとフルーツフレーバーのティーバッグを持って給湯室へと向かった。
これ、前に葵に一つもらって飲んだら、すごく香りが良くて気に入ったんだ!楽しみ~!
と、買ったばかりのティーバッグにウキウキしながら給湯室の手前まで差し掛かると、中から声が聞こえてきた。
あ、先客がいたのね。
私が姿を見せるとおもしろくないだろうから、ここで少し待つとするか。
給湯室からは見えない所で身を潜めていると、聞こえてきたのは、ルナさんと桜賀の声…だった。
「…じゃあこれだけ教えて。桜賀くん、本当にお見合いするの?」
「何でその話…」
「いいから答えて」
「…えぇ、お見合いは本当ですよ。俺がお願いしたんです」
本当、だったんだ…
しかも桜賀がそれを望んだなんて……
ダメだ、思っていたよりもショックがおっきいかも…
絶望にも似た感覚に陥っていると、ルナさんの少し色気を含んだ甘い声で「ねぇ…響くん」と、桜賀を名前で呼ぶ声が聞こえた。
…響くん…?何で名前でなんて…
という私の疑問は、続くルナさんの言葉で理解できた。
「お見合いなんてやめて、私ともう一度付き合おう?今の私なら、あなたのあの胸の傷だって愛せるわ。だから私とやり直しましょ?ね、響くん」
「…鈴原さん…」
…もう一度…ってことは…
2人は付き合っていた…
しかも…胸の…手術痕を知るほどの仲…
桜賀もルナさんも、今までそんなこと一言も…
あぁ…だめ…
桜賀のお見合いの話と…
ルナさんが桜賀の元カノだということが…
今の私の心では捉えきれなくて…
二人のその後の会話も聞きたくなくて…
何も考えられなくなって…
考えたくなくて…
私は逃げる様にその場から離れた。