君と始める最後の恋
「…じゃあ、これで一ノ瀬さんに出してみます。ありがとうございます。」


 そう言って少しの気まずさを残して席を立ち上がって自分のデスクに戻っていく。

 何でこうなるのか…。

 ふと息を吐いて志織ちゃんの方を見ると凄い顔をしてこちらを見ていた。何してるんですか、この先輩は?とでも言いたげなそんな表情。


「(私だってこんなはずじゃなかったんだよ!)」


 そう訴えるも志織ちゃんのジト目は変わらない。気まずい思いをしながらもひとまず仕事を進めた。




𓂃𓈒𓂂𓏸




「何なんですか?さっきのは。」

「し、志織ちゃん、怖いってば。」


 いつかの日もこんな風に詰められていた気がする。また給湯室で壁ドンされながら志織ちゃんの圧を直接的に受ける。毎度何でこんな風に志織ちゃんに怒られてしまうんだろう。


「分かってますか?郁先輩。相手は郁先輩大好きのあの小川くんです。一瞬たりとも油断してる場合じゃないんです。」

「そんな…、普通に仕事してただけだってば。」

「一ノ瀬さんが見ていて、そんな言い訳聞いて「はいそうですか」で納得すると思います?」

「…志織ちゃん、気にしないかも先輩。何かあっても事故じゃんとか言いそう。」


 私の発言を聞いてあり得ると思ったのか、激しく顔を歪めている。


「あり得…そうですけど…、いやいや、流石にさっきの距離は…。気にしないにしても小川くんの恋心に火を点ける様な事はしちゃダメです…!」

「そんなつもり無いのに!」


 志織ちゃんははぁと息を吐いてようやく離れてくれる。

 小川くんの恋心にまた火を点けるとかそんなつもり本当に無い。

 さっきのも仕事上でのアクシデントだ。
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