君と始める最後の恋
ひとり占め
 会社から離れて「類くん!」と叫ぶ私の声でようやく類くんの足が止まる。

 類くんの様子がおかしい。こっちを向きはしないで顔を俯かせている。


「…やっぱ無理。」

「え?」

「本当、無理。少しくらいは俺だって大人で居たかったよ。」

「え、類くん?何の話?」


 全く読めない会話の内容に問いかけると、類くんは真剣な表情をしてこちらに振り向く。その表情にドキッとしてしまって、何も言えなくなった。


「…何であいつは俺が知りたい過去の君を知ってて、独り占め出来てたんだろ。本当ムカつく、元カレとか。」

「…類、くん?」

「今君が好きなのは俺だとか、これからの君は俺が独り占めできるとか、そんなん分かってても、過去の君も全部俺のがいい。」


 珍しくストレートに言葉を吐き出している類くん。私、類くんをずっと不安にさせてた?全くそんな様子見せないから気にしてないって思い込んでいた。だけど今の類くんの表情はすごく苦しそうで、辛そうで、沙羅さんに片思いしていた時の様な表情をしている。

 もうこんな表情(かお)させないと、思っていたはずだったのに。
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