君と始める最後の恋
逃げんな
 それから何も話さないまま数日が過ぎていった。

 そもそも時間がいつも合わせないので、生活リズムを少し変えればほとんど顔なんて合わせなかった。

 いつも通り朝起きて2人分の朝食の用意して、会社行く準備をして出る。

 仕事して帰ってきたら、洗濯とか料理とか掃除とかお風呂の用意とか明日の準備を済ませて寝る。

 最近寝室では寝ていなくて客間として使ったりする別部屋で布団を敷いて寝ている。さすがに類くんには朝会った時イラっとした表情されたけど、私もふいと顔を背けてそんな生活を続けていた。


「喧嘩して怒っててもご飯とかちゃんとやってあげるのちょっと萌えるんですけど。」


 志織ちゃんのそんな発言に「それはそれ、これはこれ」と返すと笑われてしまう。


「ほら、喧嘩したらその人の家事とかしなくなる人いるじゃないですか。」

「仕事頑張って普段何も出来てないだけで、そこに負担を掛けたい訳じゃない。ただ、今は構わないで居てほしいだけ。」

「いや、一ノ瀬さんにそれは無理じゃないです?」


 志織ちゃんが呆れた様に笑ってカレーを一口掬っている。

 そんな難しいお願いをしてないのだから無理なわけない。
 構わないでなんてそっとしておいてくれるだけでいいんだから。


「ていうか、痩せたでしょ。郁さん。」


 そう言いながら声を掛けてきたのは隣に腰掛ける小川くんだった。

 最近当たり前の様にいるから自然と隣に座られて何も違和感を感じなかった。


「痩せてないよ。」

「最近一ノ瀬さんピリピリしてるんですけど、怖いんでどうにかしてくれません?元々愛想無いのにあれ以上表情無くなったらどうするんですか。」

「私にはどうしようもない。」

「あーあ、郁さんまで冷たい。」


 冷たいなんて言っても特に気にする様子もなく、持ってきたラーメンを口にしている。

 普段仕事にプライベートな事持っていかない類くんがそこまで言われるって相当怒っているのだろう。

 そう思いながら溜息を吐いていると、後ろから腕をぐいと引っ張られる。


「何してんの、また昼抜くつもり?」

「なっ、一ノ瀬先輩!」

「ちょっとついてきて。」


 そう言いながら立ち上がらせると、そのまま腕を引いて拉致される。


「(助けて!志織ちゃん!)」


 志織ちゃんの方を見ると笑顔で手を振っていた。


「(う、裏切り者~~~~~~~!)」


 私の心の中の叫びは届いていたはずなのに一気に遮断された。
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