君と始める最後の恋
 その次の週の土曜日、早速実家に帰ってきた。

 この間の実家ぶりだけど、帰ってきて到底落ち着く場所ではない。出来れば頻繁に帰ってきたくない場所なのだから。

 家のインターホンを押す時その指が止まって、類くんは私の様子をじっと見ているだけだった。

 仲が悪いわけでも家族が嫌いなわけでもないのに、どうしてこんなに躊躇ってしまうんだろう。

 大学で家を出てから滅多に帰って来なかった場所だ。
 それなのに今更帰って来いなんてどういうつもりなんだろう。


「…やめとく?」

「え?」

「別に体調が悪くなったからって帰る事も出来るけど。郁がここまで躊躇うなんて珍しいじゃん。」

「…いえ、入ります。」


 類くんの優しい言葉に甘えてしまいそうになったけど、ここで逃げてもどうせ同じことの繰り返しになる。

 深呼吸をしてインターホンを押そうとすると「姉ちゃん?」と久々に聞く声がした。

 その声の方向を見ると、2歳下の弟の秋がそこに居た。


「姉ちゃん、と類さん。初めましてですよね?結婚したとお話には聞いていたのですが、前回は会えず。」

「初めまして。」


 類くんと秋の余所余所しいやりとりを見ていると、秋は「入る?僕、鍵持ってるよ」と言いながら大学の帰りだったのか、さほど大きくもない鞄から実家の鍵を取り出した。


「うん、少しだけ上がって行こうかな。」

「母さんが最近姉ちゃんの話ばっかして、藍に帰って来いってしつこく言わせてたから。喜ぶよきっと。」


 藍は6個下の妹。18の時、私が出て行くのを嫌がっていた小学校6年生の子供だった。

 電話などでちょこちょこ話しているけど、そんなに連絡は頻繁には取り合っていない。藍に会うのも何だか緊張する。

 お母さんお父さんには類くんを紹介したけど秋と藍には類くんを紹介していない。

 都合が付かなかったらはあったけど、紹介するタイミングはいくらでもあったのに。

 秋が実家の中に入って行く背を追いかけて、私と類くんも中に入った。
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