君と始める最後の恋
「郁、また帰ってきてね…。心配してるのよ、これでも。」


 私達の背を追いかけてきたお母さんが、心から心配そうな声で言うから、私が帰って来ない事が酷い事に思えてくる。

 今まで私の帰りたくないの意思を散々貫いてきたくせに、今更罪悪感なんて覚えて…。

 お母さんの心配は嘘じゃないと思うし、優しい母親な事も分かっているんだけど、それでもどうしても受け入れられない所もあって、複雑な心境がグルグルと渦巻いている。


「…うん。また来る。」


 それだけ伝えると実家を出て、類くんと隣歩いて駅の方まで向かう。

 どうしてこんなにモヤモヤしてしまうのか。
 この気持ちを吹っ切るために実家に帰ってきていたはずなのに、結局何も進んでいない。


「郁、飲みに行く?」

「…え?」


 突然の類くんからのお誘いに困惑が起きる。

 急に飲み?お酒よりもコーヒーが好きなこの人が?

 私の困惑を受け取ったのか、類くんが私の頬を強めに引っ張る。


「何なのその間抜けな顔。」

「ごめんなさい~!」


 私の様子に一息吐くと、手を離す。


「俺には君の家の事分からないし口を出す資格もない。君も話したく無さそうだし、憂さ晴らしぐらいなら付き合うけど。」

「…類くん。」

「君の元気で間抜けな姿が見られなくて、調子狂う。」


 一言余計。それでも、類くんなりに慰めてくれようとしてくれているのが分かる。

 相変わらず慰め方も素直じゃないのが類くんらしくて笑ってしまう。

 笑う私にほんの少し顔を赤くして「笑うな、生意気」なんて言って再度頬を引っ張られてしまうけど、痛くない様に優しくしてくれているのを知っている。


「酔っぱらったら介抱してくださいね。」

「君すぐ寝るじゃん。」

「何を。今日の私はお酒強いかも。」

「そんなわけないでしょ。」


 いつまでも実家がどうこうって落ち込んでなんかいられないよね。早く前を向かなきゃ。
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