君と始める最後の恋
解けるわだかまり
 翌日、宣言通り類くんは出掛けた。

 今日は充さんと実家に一度戻ると話していたので家族仲睦まじく過ごしているんだと思う。

 私はというと、リビングでソファーに座っている藍と2人。

 今キッチンでお茶を淹れているけど、特に会話はまだない。

 久しぶり過ぎて何を切り出せばいいのか。

 空気は凄く重たい。

 どうしようかと悩んで一旦淹れたお茶をテーブルの上に置いて、藍の隣に私も座る。

 数分間、何の感情も湧かないまま点いているテレビをボケッと眺めて時間だけが刻々と過ぎて行った。

 折角類くんが時間をくれたんだから、何か話さなきゃとは思うけど、私がどこまで踏み込んで良いのかも悩んでしまって中々言葉は出ない。

 そんな空気の中、沈黙を破ったのは藍だった。


「何で、大学で家を出たの。」

「何で…?」

「お姉ちゃん。大学反対されてたし、家に居てくれるって思ってた。お母さん、女の子が頭良くなってもって言うでしょ。」


 確かにそうだった。どうせ行くなら料理の専門学校でも行けば?なんて言っていたな、お母さん。

 私の料理スキルは小さい時からやっていたから身に着けたものだった。

 料理が好きだったとか、そんな微笑ましい理由じゃない。
 母が、女性ならばと私に押し付け、教えたものだ。


「うーん、大学に行ったのは確かにあの環境から逃げる為だったかも。何もかも縛り付けられていたし、ここに居たら好きなように過ごせないままなんだろうなって。」

「…ずっと我慢してたから?出て行ったの私とお兄ちゃんがずっと我儘言って困らせたから?」

「違う。さっきの理由以上も以下も無い。」


 本当にただちょっとした反抗心で家を出ただけ。
 寮に入ってでも自由に過ごしたかっただけ。

 家族が嫌いだったとか、そんなんじゃなくて逃げる様に出てきたからそれで帰りにくくなって、過去の事を思い出したりすると余計に帰らない理由を見付けて疎遠になっていった。


「ずっと辛かった。お姉ちゃんが帰って来なくなって、私が成長すればするほどお母さんは古い考えを押し付けてきて、相談したいのに出来なくて、スマホを持った時には就職とか、恋愛とかで忙しそうだし…。」

「藍…。」

「せめて頻繁に帰ってきてくれたらって何回も思った。」


 一番上で、家庭環境の事で誰にも相談できなかった私と一緒なんだな。

 秋は家事なんかやってないで逆に学力を付けなさいって押し付けられた側で、この苦しみも同じ女性にしか分からないと思って、秋にも相談しなかったのだろう。
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