君と始める最後の恋
『急に結婚するって聞いて私もお父さんも本当に驚いたし、見ていて素敵な人だと思うけど、それでもあまり知らないから心配だし、周りにあまり紹介しないのも何か理由があるのかって。』

「…何も無い。強いて言えば、親戚の人達はあまり好きじゃないし、類くんは大勢の人で集まるのがあまり好きじゃない。だから結婚式も家族式にしようって決めただけ。」


 それだけ言うと母は『そう…』と短く返事をした。

 母以上に考えが古い人達だから、女の子は可愛がってもらうためにとか、集まりでそんな話ばかりする。

 私は心底うんざりしていたし、秋だってその集まりをあまり好きじゃなかった。藍はその時まだ小さかったから、わかっていなかったけれど…。


『明日、藍が帰ってきたらよく話してみる。郁の言う通り押し付け過ぎていたのかもしれないし。』

「…うん。また連絡する。」


 母との会話を済ませると、そのタイミングで寝室のドアにノックされる。


「どうぞ。」


 返事をした後遠慮がちに顔を覗かせたのは藍だった。

 明日帰るのが怖いのか、顔色が浮かない。


「…お母さん、怒ってた?」

「ううん、怒ってない。」

「本当に?」

「家出して私に強気に泊めてって言う度胸はあるのに、変な所弱気なんだから。」


 そう言って笑うと藍は顔をふいと逸らして頬を染めている。
 こういう所が藍の可愛い所だと思う。


「…類さんに失礼な事言っちゃってごめんね。お姉ちゃんの旦那さんなのに。この人のせいで余計にお姉ちゃんが帰って来なくなったんじゃないかって勝手に敵対視してた。」

「…類くんは関係無いよ。常に私のやりたいことを尊重してくれる人だから。それに、類くんも怒ってないから大丈夫。」

「何か言ってた?」

「そっくりって言われた。似てるんだって、私達。」

「…似てないよ。」


 自分達は本当に似てないと思う。

 少しツンとしても、照れくさそうにしている藍の方が何倍も可愛い。
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