君と始める最後の恋
「交際期間、類さんとお姉ちゃん長くないよね。」

「そう、だね。1年くらい?」

「決めるの早くない?」

「うーん、でも不思議と類くん以外とって思わないし、何の違和感もなかったな。結婚してって言われた時。」

「あの人、プロポーズできるの?」

「そりゃ!あの時の類くんはもうとびっきり…「郁」」


 テンションが上がって話そうとしている時に、聞き馴染みのある声に言葉は詰まる。

 まずい、話過ぎるところだった。

 帰ってきている事も気付かずに、顔をゆっくりとドアの方に向けるとドアの淵に凭れ掛かって腕を組んでこちらを見ている類くんと目が合う。

 ちょっと怒っている表情の中に何話そうとしてんの、このポンコツと蔑まれている様な声も聞こえてきた気がした。


「…ゆっくり話せた?」

「そ、それはもちろん!ね、藍。」

「なんてプロポーズしたの?」

「藍!」


 そういう話に興味津々なのか目を輝かせて聞いてくる。

 こんなの2人そろって話せるわけない。

 私が話さないと分かったのか藍は類くんの方を見ている。

 類くんは藍の方に視線を移すと少しだけ笑みを零して「内緒」とだけ言葉を残すとそのまま寝室から離れて行った。

 あの内緒の言い方が可愛すぎて、もう天に昇ってしまいたい。
 ばたっと倒れる私に藍が「お、お姉ちゃん!?帰ってきて!!!!!」と叫んでいる声が我が家中に響いていた。

 プロポーズの事なんて何度思い出してもときめける。






 あの内緒の言い方に2人の秘密的な甘い意味が含まれているのではないかと邪推した郁だったが、実際の一ノ瀬の心情は


「(元カレに嫉妬で焦って、仕事帰りの夜道でプロポーズしたとか言える訳無いでしょ。)」


 だった。

 郁がときめいていたとも知らず、類のプライドはまた傷付いていく。
< 369 / 426 >

この作品をシェア

pagetop