君と始める最後の恋
 それからも慌ただしくあっという間に一週間は過ぎて、退職日になっていた。

 今日はこれから送別会もあるのに、会社で思い出に浸る暇もなかった~!なんて思いながらもひたすらにキーボードを叩く。

 定時になると結絃が「郁」と名前を呼んできてそちらに振り向く。


「ん?やり残し?」

「違うよ。それ、急ぎじゃないし後俺でもやれるからここで上がろ。二時間後には送別会もあるし。後、挨拶回りとかしなくて良いの?」

「挨拶周りは昨日したよ。」

「本当鈍いな。まあいいや、1つずつ片付けよ。まずこれ。」


 そう言って小さな箱を渡される。
 綺麗にラッピングされていて、何か渡されるなんて思っていなかったから驚いた。


「え、なにこれ。」

「クッキーだから旦那さんと一緒に食べて。残る物だと嫌だろ。それと、いままで長く補佐してくれたお礼。ここ来てすぐ、ちょっと不安だったけど、補佐が郁でよかったわ。」


 結絃の言葉に思わず少し泣きそうになる。

 本当にもうここで仕事をすることは無いんだって実感が今更湧いてきて、思ったよりもこの仕事を好きになっていた事を実感した。


「泣くなよ。ブサイクになんぞ。」

「何さ!こんな感動的な事してくれちゃって!」


 揶揄う結絃にそうやって怒っていると、結絃は笑うだけ。

 私だって3課に来てすぐ不安だった。

 ポンコツだった私が、何も知らない結絃の補佐についてしっかりしなきゃって仕事を頑張れた。私だってたくさん感謝している。


「こちらこそ、また友達に戻れて良かったって思ってるよ。」

「はいはい。そろそろ元担当さんにお返ししますか。定時に渡してって頼まれてたから。」

「え?」


 結絃がどこかに合図を送っていて、そちらを見ると類くんと目が合う。

 何で、類くん?と、首を傾げていると、結絃がこちらを見て優しく微笑んだ。


「行ってこいよ。遅めに送別会も設定しといたから、有能幹事に感謝しろよな。」

「自分で有能とか言う?」


 今回の幹事をしてくれた結絃に、笑ってそうツッコんで類くん元へと向かう。

 こんな風に呼ばれる事なんて無かったから少し緊張する。

 元担当さんにお返しするって何。
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