君と始める最後の恋
 翌日、目を覚ますとカーテンの隙間が光を差し込んでいた。

 目を擦りながらも部屋の壁かけの時計に目を向けると時刻は8時を指していた。


「(え、8時!?)」


 慌てて飛び起きてベビーベッドを見ると、紬も居ない。

 本来6時半にアラームを掛けていたはずなのに、アラームを止めてしまったのかそのまま寝坊してしまったらしい。

 慌ててリビングに行くと、仕事の準備を済ませた類くんが紬を抱っこしていた。


「おはよ、郁。」

「あ、あの、紬のミルクとか、もしかして…。」

「6時40分くらいにあげたから、次10時頃かな。おむつも変えて今は大丈夫。朝ごはんは置いてあるから落ち着いたら食べて。」


 朝ごはんの準備も私がしようと思っていたのに、類くんがすべてこなしてくれたらしい。

 何からお礼を言って良いのかもわからない。

 起きたてで頭も回らなくてその場にしゃがみこむ。


「ちょっと、大丈夫?体調悪い?」


 どこまでも優しい類くんに顔を横に振ると顔を上げて「すみません…、本当。」と伝える。

 謝罪の言葉を口にする私に類くんは、私の頬を片手で引っ張る。


「1人で育児してんじゃないし、無理しないでよ。てか、すみませんって何。2人でやらなきゃいけないことに謝る必要なんて無いでしょ。この甘え下手。」


 紬は類くんの腕の中で親指を吸っている。

 何事もなくミルクもおむつもされているのを見て、ドッと力が抜ける。

 類くんが出来ないと思っていたわけでは無いけど、仕事前に負担を掛けてしまったと思うと申し訳なさが出てしまった。

 甘え下手と言われてうっと言葉に詰まる。


「俺も仕事前は余裕持って起きる様にするし、出来るだけ2人で頑張ればいいでしょ。」

「…はい。」

「何その納得いってなさそうな声と顔。頑固。無駄に体育会系なんだよ君。」


 そう言って頬から手を離すと、紬が寝転がるには十分なマットの上に毛布でくるんで寝かせられる。

 それからキッチンに向かうと「早く顔洗ってきたら。」と言いながら朝食の準備までしてくれた。

 私の事まで世話を掛けてしまうのも申し訳なさすぎる。

 「はい」と小さく返事をして洗面所に向かう。

 類くんの言っている事は最もだけど、今私は仕事もしていないのにここまでの負担を掛けてしまっていいのか。
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