君と始める最後の恋
『あの時専業主婦にさせてもらって子育てに専念出来て良かったな。一ノ瀬はその分働いて稼いでやらないと。』


 なんて笑いながら吐いた言葉。

 それ言う必要ありますか?と思ってしまったけどきっと部長に深い理由なんてない。

 前のうちの家庭に似た様なものを感じて上手く笑えなくなかった。

 まるで女は働くよりもそうするのが幸せだみたいな言い方をする。もやっとした物を感じながらオフィスから廊下に出た。

 別に男性が家で子育てをして、女性が外に働きに出る家庭があったっていいと思う。お互いに納得しているのであれば。

 家がそうだっただけに嫌なワードを聞いてしまって、行く前とは違う重い足取りになった。

 類くんがそんな私の心情を察して、そっと肩に手を置く。


「郁、気にするな。」

「…気にするなって?」

「うちの事情なんて向こうに分かってもらう必要なんて無いし、そもそも郁が仕事を辞めたのは俺のくだらない我儘なんだから。」


 元々男性社員が多いこの会社で私が働くと嫉妬するなんて理由で専業主婦を奨められたけど、私の気持ちの余裕が無いのもあって「本当にそれだけ?」なんて呟いてしまった。


「え?」

「あ…、いえ、何でも無いです。今日は帰り遅くなりますか?」

「いつも通りだと思う。下まで送る。」

「いえ、道もわかるので大丈夫です。」


 そう言ってふいと背中を向けてエレベーターの方に向かう。

 何だか色々な事にモヤモヤしてしまうのなんなのだろう。
 いつもならもうこの手の話もうまく流せるはずなのに。

 今日は上手く流せない。
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