俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「椎名(かける)といえば、CAとかグランドスタッフの間でかなり人気のある人よ」
「そうなんだ」

 私と違って噂に敏感な梓は、そういう情報に明るい。彼の年齢は、たしか三十三歳だと教えてくれた。

 スラリと背の高い男性で、目の鋭さが印象的な人だった。整ったシャープな顔立ちをしており、初めて顔を合わせたときは私も一瞬呆けてしまったほどだ。

 同じく一緒になった機長が、椎名さんは仕事熱心で優秀な人物だと話していた。わずか一日関わっただけだがたしかにその通りの人だと感じられ、女性からの人気が高いのも納得できる。

「それにしても無線の交信だけで相手がわかるって、よっぽど真由香好みの声なのね」
「ま、まあね」

 あらためて指摘されると、なんだかこそばゆくなる。

「理想の声の人にしっとりとささやかされて、さらに甘やかされるっていうなら、結婚も考えなくもないんだけどなあ。ね、真由香」

 梓が私をからかうように言う。気恥ずかしさをごまかそうと、ちょっとだけ悪ノリしてしまう。

「あの声に、四六時中愛をささやかれてみたい。そうしたら私……」

 そんな場面を想像しただけで、ぶわりと体温が上がる。

「だめだめ。すぐに降参しちゃう」

 そう言いながら、熱くなった顔を両手で覆った。

「もう、自分で言っておきながら恥ずかしがっちゃって」
「だって……」
「真由香って、本当に初心よね」

 私の様子を笑っていた梓だが、ふっと静かになる。
 どうしたのかと手を外して彼女を伺うと、梓が顔をこわばらせているのに気がついた。

「梓?」

 どうやら私の背後を気にしているらしい。彼女の顔は、だんだん青ざめていった。

「ねえ、どうかしたの?」

 そう尋ねながら、そろりと背後を振り返る。

「え?」

 こちらを見ながら、にこりと微笑む男性と視線が絡む。
 いや、あれはにこりなんて顔じゃない。なにかを企んでいるような、ニヤリとした笑みだ。

「椎名、さん……」

 今まさに話していたご本人の登場に、一瞬にしてその場の空気が凍りつく。その表情から察するに、私たちの話が聞こえていたのだろう。
< 10 / 110 >

この作品をシェア

pagetop