俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「来栖真由香さん。で、あってる?」
「は、はい」

 嫌な緊張からつい声を張り上げてしまい、きまりが悪くてうつむいた。

「……すみません」

 フルネームを知られているのは、以前研修で名乗ったのを覚えていたのか。なんとなく気になったが、今はそれどころではない。

「好きなんだ、俺の声」

 予想外の問いかけに、ん?と心中で首を捻る。すぐさま叱責が飛んでくると思ったが、どうやら違うらしい。

 チラッと視線を上げて様子をうかがう。
 目の前に座る彼の表情は、怒っているようには見えない。それどころか薄らとほほ笑んでいるから、ほっとしてわずかに肩の力を抜いた。

「なんて言ってたかなあ……たしか、この声に四六時中愛をささやかれたい、だったか?」

 こうして話している声が、本当に私好みだなんて楽しむ余裕はない。自分はとんだ思い違いをしていたようだと、すぐさま悟った。

「ご、ごめんなさい」

 やわらかな表情に反して、彼の目はまったく笑っていないとようやく気づく。彼の静かな怒りに触れたようで、声が震えてしまった。

 まっすぐに視線を向ける勇気はなくて、チラチラと椎名さんの様子をうかがう。
 そんな私に、彼は右手の人差し指をくいくいと曲げて近づくように促した。

 内緒話でもするつもりだろうか。他人の目のある場所で酷いことはされないはず。どう考えても非は私にあるのだから、従うしかないだろう。

 わずかに腰を浮かせて、恐る恐る前かがみになる。少し顔を横に背けて視線を脇に流し、間近に迫る椎名さんの顔を極力見ないように努めた。

 彼も前かがみになって、私に近づいているようだ。振り向こうとしたが、思った以上に近く感じる気配に踏みとどまった。
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