俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「好きだよ」

 耳もとで静かにささやかれて、はっと息をのむ。目を見開いた私は、一拍後にぱっと体を起こして耳を押さえた。

 体がふらりとよろける。崩れ落ちそうになっていた私の腕を、椎名さんがさっと掴んで支えてくれる。それから座るように促されて、おとなしく従った。

 呆然とする私を見ながら、椎名さんがくすりと笑った。

「効果てきめんだな」
「なっ、なっ」

 どうやら、からかわれたらしい。顔はみるみる熱くなり、羞恥心に襲われてわなわなと震えた。

 容姿の整った人にこんなことをされてはたまらない。
 自分の失態を棚に上げて抗議しそうになるが、動揺して明確な言葉にならない。

 うつむいて、落ち着けと内心で言い聞かせる。
 私がそんな状態にある間に、目の前からカチャリとカップをソーサーに戻す音が聞こえてきた。おそらく彼は、余裕な態度でコーヒーを楽しんでいるのだろう。

「それにしても、声だけで俺だと気づいてもらえるなんて光栄だな」
「あ、あれは……」

 椎名さんのしみじみとした口調に、妙に焦る。つい反応して顔を上げたが、彼の笑みを前にしたら、声があまりにも自分好みだからという本音を漏らす前に踏みとどまった。

「俺も。君が相手なら、すぐに気づく」
「え?」

 思うままを口にして恥の上塗りをしないで済んだとほっとしていると、椎名さんが予想外のことを言うからドキリと鼓動が跳ねた。

「と言っても、出くわす機会は少ないけどな」

 呆けた私を見つめながら、彼が続ける。

「管制官の中で、気遣う言葉を添える人はそれほど多くいるわけじゃないから」

 要するに声を聞き分けたというのではなくて、ひと言添えるのが私だと区別している。もっと特別な意味があるように感じた自分が恥ずかしい。
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