俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「あのひと言は、ほっとさせてくれる」

 打って変わって穏やかな調子の椎名さんが意外で、瞬きを繰り返す。つまり交信中の私の振る舞いは、彼にとって迷惑どころかプラスになっているらしい。

「それなら、よかったです」

「そんな気遣いができる君なら、交際合相手どころか結婚相手くらいすぐに捕まえられそうなものだけどな」

 まさかとは思ったが、椎名さんはかなり前から背後の席にいたようだ。そんな話も聞かれていたなんて情けない。

「この仕事をしていては、時間的にそこまでの余裕がなくて」

「まあ、俺たちパイロットも同じようなものだな。親から、結婚はまだかとせっつかれるのも」

 梓との話はほぼ全て聞かれていたのだと悟り、あきらめの心境になる。

「椎名さんこそ、お相手には困らないでしょうに」

 性格はまだよくわからないけれど、容姿はこれほど素敵な人だ。おまけに仕事に誠実な彼のこと。周囲の女性は放っておかないはず。

 さっきまでの掴みどころのないようすは鳴りを潜め、彼が普通に会話を始めるから気が緩んで本音が漏れる。そんな私に、椎名さんは器用に片方の眉を上げてみせた。

「俺なら、女に困らないと?」

 勘違いさせる言い回しだったようで、棘のある口調で返される。いかにも彼が遊び人であるかのように聞こえたかもしれない。

「そ、そういうわけではなくて」

 再び焦る私を前に、椎名さんは「冗談だ」と笑いながら力を抜いて背もたれに体を預けた。

「まあ、言い寄られがちなのは否定しないが。けどな、気持ちもないのに靡くわけがないだろ。そういうの、俺はいらないから」

 その通りだと、こくこくとうなずく。仕事中の印象通り、彼はプライベートでも誠実な人のようだ。
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