俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「結婚……」
「そうだ」

 彼は迷いなくうなずくが、意味がわからない。

「あくまで結婚した〝ふり〟でかまわない」
「ふり、ですか?」

「俺も、両親から結婚はまだかとしつこく言われている。だがそれとは別件で、困った状況にある」

〝困った〟と言うからには、話を聞かないわけにはいかない。

「うちの下請け会社の女性CAが、あまりにもしつこく絡んでくるからすっかり辟易している。その気はないと、何度もきっぱり断っているが……はあ。わかってもらえないんだ。機長へ昇格を目指して仕事に専念したいのに、いい迷惑だ」

 わかるか、この状況?と尋ねられて、目を合わせたままこくこくと首を振る。

「そこでだ。君に、偽装結婚を提案したい」
「偽装結婚?」

 要領を得ない返しになる。

「ああ、そうだ」

 私の中で話を整理する時間を与えるためか、椎名さんがカップに手を伸ばす。

 こんな大きな話をしているのに、彼はすっかりくつろいでいる。その様子を見ていると、ほんの少しだけ落ち着きを取り戻した。

「お互いの両親には、いずれ結婚するかもしれない交際相手ができたとでも伝えれば、一時は抑えられるだろ? なんなら、顔を見せに行くくらいは付き合う」

「そうかも、しれないですけど」

 しばらくした頃に、別れたとでも言えばいいのだろうか。それは現実にもあり得ることだが、親を騙すようなやり方に気が引ける。

 ただ、彼の提案にわずかに心が傾いたのは否定しない。母親からのプレッシャーは、確実に私の負担になっている。

「社内では、誰とは言わず結婚したと装わせてもらう。必要があるなら、君の方もそうしてくれてかまわない。プライベートで出会った人だと濁しておけば、相手が誰かなどわからないはずだ。その振る舞いに真実味を持たせるために、君を利用させてもらいたい」

 とりあえず、彼に気のある女性に逆恨みだけはされたくない。
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