俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「えっと、大丈夫ですか?」

 椎名さんが、そっと顔を上げた。

「やっぱり君は、気遣いのできる優しい人なんだな。こんな突拍子もない提案しているというのに、突き放すことなく俺を心配してくれる」

 彼の弱々しい笑みに、ドキリとする。

 過去の数少ない恋愛経験から、自分は異性の沈んだ姿にどうにも弱い質だと自覚はある。母性本能をくすぐられるというか、どうにかしてあげたくてお節介を焼きがちになる。

「俺を、助けてくれないか?」

 切なげに懇願されて、胸が絞めつけられる。
 私にも、してあげられることがあるかもしれない。それがさっきの失態の償いにもなるのなら、なおさら協力してあげるべきだ。

「その。私なんかで、あなたの助けになりますか?」

 ただ、こんな素敵な人なら手を貸してくれる人はいくらでもいそうだ。それこそ、本当に職場とは無関係な人の方がいいのかもしれない。


「俺は、君がいいんだ」

 好みの声に言われる、このひと言は破壊力が大きい。鼓動がひと際大きく跳ねて、恋愛的な意味で本当に求められているように錯覚しそうになる。

 ここまでの様子から察するに、椎名さんにとっては両親からの催促よりもその女性とのトラブルの方がかなり負担になっているのだろう。上司にも相談していたようだから、長く引きずる問題なのかもしれない。

 彼は副機長としてたくさんの乗客の命を預かる立場にある。そんな人が心労を抱えているのも心配だし、なによりすっかり弱りきった姿を無視するなんて私にはできそうにない。

 結婚といっても、あくまでふりをするだけだ。彼と一緒にいる姿を見せるわけでもないし、私の負担はそれほど大きくないように思える。
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