俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「その、私でよろしければ」

 電話に応じるくらい、べつに難しくはない。スマートフォン越しとはいえ、好みの声を聞かせてもらえるのは私にとってご褒美のようなもの。

「いいのか?」

 椎名さんが、期待に満ちた目をする。

「は、はい。先ほどは、失礼な態度を取ってしまいましたし。あなたが心配なので、私でよければ協力します」
「ありがとう」

 彼の心底ほっとした様子は、自分の選択は間違っていないと思わせてくれた。

 けれど次の瞬間、椎名さんはニヤリと意味ありげに笑ってみせた。

「それなら、さっそく俺のマンションで一緒に暮らしてもらおうか」
「ええ⁉」

 なにがどうしてそんな話になるのか。

「だってそうだろ? 君が俺に最も望むのは、この好みだという声に四六時中愛をささやかれること」
「なっ」

 両親からの圧に疲弊する梓が無理に明るく装っていたから、私も励ますつもりで軽い調子でそんなことを口走ったのは否定しない。ただし、半分以上は冗談だ。

 でも、そんな癒しが恋しくなるくらいいろいろと疲れがたまっているのも事実で……。
 チラリと椎名さんを見る。

 女性として、常に愛をささやかれるシチュエーションに憧れはある。それで仕事のモチベーションも上がるに違いないと、つい考えてしまった。

 彼のささやきにどれほどの威力があるかは、すでに実感済みだ。耳もとで『好きだよ』と言われただけで、気持ちが伴っているわけでもないのにどうしようもなく胸が高鳴った。

 だめだ。思い出すだけでも、悶絶するレベルで恥ずかしすぎる。
 肌に感じた彼の吐息とともにさっきの感覚がよみがえり、ジワリと頬が熱くなった。
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