俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「まんざらでもないみたいだな」

 完全に否定できないところが不甲斐なくて、照れ隠しにジト目を向けた。

「よかったよ。俺の声が君の好みに合っていて」
「で、でも」

 彼のマンションで一緒に暮らすなんて、想定すらしていなかった。そんな条件がつくのなら、安易に同意なんてしない。

「安心してよ。お互いに多忙の身だ。自宅で一緒になる時間など、さほどないだろ」

 そうかもしれないけれどと、迷いに視線が揺れる。

「だからこそ少しでも近くにいられる状況をつくって、一秒でも長く一緒にいたい。そうすれば、より真由香に俺の愛を伝えられるだろ」

 熱い視線に見つめながら、そんなふうに言うなんて卑怯だ。しかも、なんの前触れもなく名前で呼んできた。

「スマホ越しでいいだなんて、味気ないことを言わないでくれ」

 うろたえてなにも言い返せない間に、椎名さんが逃げ道をふさぎながら揺さぶりをかけてくる。

「なあ、真由香」

 彼の視線に切なさが加わったように感じたのは気のせいだろうか。
 まるで私の気持ちを先回りするような言動につい反発したくなるが、さっき目にした苦悩する彼の様子が脳裏にちらついて強く出られない。

 椎名さんの提案はがんばっている自分へのご褒美だと、言いわけするように自身に言い聞かせる。
 これは罪滅ぼしのためにする人助け。それ以上でも以下でもない。

「わ、わかりましたから!」

 私が同意した途端に、椎名さんがやわらかな笑みを浮かべた。

 そうかと思ったら、すぐに真顔に戻る。これではまるで騙されたようだが、時すでに遅し。
 
 そこから、話は椎名さん主導でどんどん進められていく。気づけば連絡先を交換し、彼のマンションに移り住む日程まで決められていた。
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