俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「とりあえず、真由香が寝泊まりするスペースは問題ないから。細かいところはおいおい話をしていこう」

 名前呼びは、もう決定らしい。
 始まってもいない暮らしの想像なんてできず、彼の提案に曖昧にうなずいた。

「これは一時的な関係で、問題が解決したらすぐに解消するんですよね?」

 念のために確認しておこうと尋ねた私に、椎名さんはいかにも人のよさそうな笑みを向けてきた。

 はっきりと返事をされたわけではないけれど、これは了承したと捉えていいだろうか。彼のトラブルが解決するまでと期限が明確でないため、椎名さんとしても明言しづらいのかもしれない。

「それじゃあ、また連絡する」

 ようやく解放されると、密かに安堵した。

「わかりました。私は、ここでもう少し休んでいくので」

 椎名さんがさっと立ち上がる。
 私の横で、彼がピタリと足を止めた。椎名さんが体を屈める気配を察知して、反射的に身を強張らせる。

「愛してる、真由香」

 体がビクリと揺れる。
 耳もとにかかる彼の吐息と、心地よい低く甘い声音に全身が熱くなった。

 くすりと笑われてまたからかわれたのだと気づいたものの、なにも言い返せそうにない。怒るべき場面なのに、やはり彼の声の威力は大きくて羞恥心が勝った。

 椎名さんと初めて顔を合わせたときから、きっと真面目な人だろうと思っていた。
 でも、もしかして彼には意地悪な一面もあるのかもしれない。
 この人の思惑通りだったとしたら悔しいが、しばらくの間、私は顔を上げられないでいた。



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