俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う

家庭内限定の溺愛

 時刻は十四時すぎ。

「椎名さん! 話が違います」

 思わず私が叫んだ場所は、彼のマンションのリビングだ。あきらかに高級な部類に入るこの部屋なら、少しくらい大きな物音を立てたところで近隣の迷惑にはならないはず。

 私の目の前にいる椎名さんは、眉間にしわを寄せて不快な顔をした。

 彼がひとり暮らしをするこの部屋は、二十階の角部屋だ。窓際に立てば、眼下に都会の街並みを見下ろすことができる。
 時間帯や季節によって素敵な景色が見られるだろうと、ついさっきまで心が弾んでいた。が、それを楽しみにする気持ちは早くも消え失せた。ソファーにひとり分の間を空けて隣に座る、この男性のせいで。

「なにが?」

 問題などなにもないとでもいうような、すっとぼけた調子に苛立ちが募る。
 でもここで感情任せになってはいけないと、ぐっと手を握りしめて気を静めた。

「すべてが、です」

 きっぱり言いきった私に、彼は器用に片方の眉を上げてみせた。

 今から二時間ほど前のこと。私はあらかじめまとめておいた荷物を手に、自宅まで迎えに来てくれた椎名さんに連れられてここへやってきた。それは、十日前に空港内のカフェで約束した通りの予定だ。

 けれど、その後がイレギュラー続きで参ってしまう。

 仕事ひと筋で大金をかけるような趣味はないという彼だが、自分のプライベートエリアだけは快適な空間を保ちたいと相当なこだわりを持っているらしい。

 職場からほど近いこの辺りの家賃相場は、私では手が出せないほど高額になるはず。
 ここへたどり着くまでに眺めた近隣の街並みは、洗練された印象を受けた。高層マンションが複数立ち並んでいるが、住人の憩いの場となるような緑豊かな大きな公園もある。今日はなにかイベントでもあるのか、そこには大小さまざまな種類の犬を連れた飼い主たちが集まっていた。

 まさか、彼がこんなセレブな街で暮らしているとは知らなかった。自分にはあまりにも場違いで、本当に来てよかったのか不安になったくらいだ。
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