俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「たしかに私は、あなたと一時的に同居をすると決めました。でも、一緒のベッドで眠るなんてありえませんから!」

 そう言いきって、手をぎゅっと握りしめる。

 落ち着こうとは思いつつ、つい語尾が荒くなってしまったのは仕方がないだろう。カフェで失礼にも好き勝手話していたという後ろめたさがあるとはいえ、ベッドについては黙っていられない。

 とにかく広々としているこのマンションは、床面積だけ見たら子どもがふたりいる家族が余裕で暮らせそうな規模だ。

 大きなテレビの設置された広いリビングは、家族の憩いの場にもってこいだろう。その向こうに続くダイニングキッチンは、使用しているようだが掃除がきちんと行き届いていた。

 それに、さっき見せてもらった浴室はホテルのスイートルームかというほどゆったりとしていた。浴槽は、足を延ばして座ってもまだ余裕があるほど広い。

 ベランダの使用制限があるため洗濯物を外には干せないが、代わりにガラス張りになった日の光が十分に差し込むランドリースペースまで完備されている。それに乾燥機もあった。時間や天気に関係なく洗濯ができるのは、不規則な生活になりがちな私にはありがたい。

 とことん至れり尽くせりなマンションだけど、つい先ほど大きな問題が発覚した。
 部屋数が、決定的に少なすぎる。

 案内されて初めて間取りが明らかになり、単身者もしくはふたり暮らし向きだとわかった。もちろんシェアハウス的な用途ではなく、夫婦で暮らす用だ。

 リビング以外に寝泊まりできそうなのは、椎名さんの使っている私室のみ。自由に使っていいとクローゼットの一角を解放してくれたが、そもそも彼の寝室内だ。私だけが入れる空間というわけではない。

 誰かを泊めるようなスペースはない。これでどうして私を招いたのかと、首を傾げてしまう。
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