俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「まさか、このソファーで寝るなんてことは言うなよ。管制官である真由香に無理をさせて、翌日の業務に支障をきたすわけにはいかない。きちんと体を休めなくてはだめだ」

 彼は私の心の中が読めるのだろうかと、疑いたくなるほどズバリ切り込まれた。
 それでもあなたに指摘されたくはないと、心の中で愚痴をこぼす。

 彼のベッドで眠る方が緊張して安眠できないとは、かろうじて漏らさなかった。それを言っては、私がものすごく椎名さんを意識していると白状するのも同然だ。

「数日はそれで大丈夫でも、椎名さんが……」

 帰ってからはどうするのか。そう言いかけた私の唇に彼が人差し指を当てるから、目を見開いて言葉をのみ込んだ。

 私が黙ったのを見て、ようやく唇から手が離される。
 でも、ほっとしたのも束の間。今度は彼に手を取られた。
 唐突に触れられて体は強張り、払いのけるのもままならない。

「夫婦を装うんだ。そんな他人行儀な呼び方はやめてくれないか」

 彼の熱い視線に鼓動が騒ぎだし、頬に熱が集まる。
 指摘をするのはそこなの?と戸惑いながら、いたたまれなさに身を縮こませた。

「なあ、呼んでみてよ」

 耳心地のよいテノールが私を誘惑する。

 その必要はあるのかなんて疑問が薄ら浮かんだが、羞恥心と妙な焦りに頭が混乱して言葉にならない。

 ここぞとばかりに甘い声で懇願するのは、冷静でいられなくなるからやめてほしい。
 もう彼の自宅まで来ているのだから、今さらなのかもしれない。どうにでもなれと、半ばやけになって口を開く。

「……翔さん」

 小声とはいえ、なんとか名前を呼ぶ。途端に、彼は嬉しそうな顔をした。
 こんなに感情豊かなのだから私がいなくても偽装夫婦の芝居くらいできたんじゃないかと、疑わしくて恨めしげに彼を見た。

「そんな顔をしてもかわいいだけだ」

 笑いながら、額を軽く突かれる。
 これではまるで初々しい新婚夫婦のやりとりみたいだなんて、気づきたくなかった。どうしようもなく恥ずかしくて、足下に落とした視線を上げられない。
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