俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「ただでさえ、俺たちはすれ違いがちな生活になるんだ」

 ふと落ち着いた声音で言われて我に返る。

 お互いに不規則な生活を送っているのだから仕方がないだろう。
 それが問題になるのは本当の夫婦や恋人の場合で、偽装夫婦でしかない私たちにはむしろ好都合なはず。
 すれ違いは歓迎すべきだと。そう思いながら横目で見た彼の表情が愁いを帯びているようで、妙に気になってしまう。

 困惑している間に、そっと肩を抱き寄せられる。

「え?」

 戸惑う私にかまわず、その近すぎる距離で彼がささやいた。

「少しでも長く一緒にいられたら、それだけ多く甘い言葉をささやいてやれるだろ?」

 真面目な話だと思った自分がばかだった。
 機械越しでもいい声なのに、真横で直に聞かされたらたまらない。耳をふさごうにも手を挟む隙間もなくて、どうするここともできず瞼をぐっと閉じた。

 頬に触れた柔らかな感触に、ハッとする。

「い、今……」
「男にここまで近づかれて目を閉じるのは、あまりにも不用心じゃないか。無防備すぎる」

 私を追い込んでいるのは翔さんの方だというのに、あまりにも理不尽な指摘だ。

 でも、それより……なにをしたの?と尋ねかけたが、正直に答えられてもたまらず口をつぐんだ。
 気のせいでなければ、頬に口づけられたのだと思う。

「偽装の関係だとは言え、夫婦を装うからには雰囲気づくりも必要だ」
「い、いらないと思います」

 軽く聞き流してはいけない言い分に、とっさに切り返した。
 けれど動揺して声が震えてしまい、あまりにも頼りない。

「俺には必要だ。上辺だけの言葉では、愛が伝わらないだろ?」

 首を小さく横に振る。
 表面上の言葉で十分。なんなら罪滅ぼしのために協力するのだから、私に対する気遣いは無用だ。
< 26 / 110 >

この作品をシェア

pagetop