俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 ようやく体を離されて、即座に顔を手で覆う。
 そんな私を見て、翔さんがくすりと笑った。

「約束はきっちりと守るし、異存は認めないから。真由香が癒されて、仕事もはかどるなら一石二鳥だしな」

 いい声に甘くささやかれたいという願望は、私の中にたしかにあった。

 けれど、実際にされてみたら思っていたのと違う。その破壊力はとてつもなく大きくて、平静を保てそうにない。さっきから痛いほど鼓動が打ちつけてくるし、安穏とか平穏なんかからは程遠かった。

「安心しろよ。同意も得ずに手をだすような真似はしない」

 同意をすれば私を相手に実行するのかと反射的に問い返しそうになり、慌てて口もとを抑える。

「ただ気持ちを盛り上げるためにも、軽い接触は遠慮せずにさせてもらうから」

 なにか言い返さないと、彼の考えに合意したと思われてしまう。
 どうしたらいいのか必死に頭を働かせるが、気が動転して考えがまとまらない。

 自分は少しのことでは動じない性格だったはず。だから、常に冷静沈着な対応を求められる管制官の仕事が合っているという自負もあった。
 それなのに、翔さんの前では普段通りでいられない。さっきから心はかき乱され続け、彼に翻弄されてばかりいる。

「これで俺の身辺も落ち着くと思うと、助かるよ」

 この窮地をなんとかして切り抜けなければと必死になっているところに、穏やかな表情を見せられて思考がピタリと止まる。

「真由香がいてくれると、すべてがいい方へ動きだしそうだ」

 まだ彼のためになにもしていないというのに、翔さんはすっかり私に気を許しているようだ。そして、ものすごく信頼されてもいるらしい。

 彼はそこまで追い詰められていたのか。
 もしくはこれまでのモテ人生で経験が豊富で、知り合ったばかりの私とこんな近い距離感で過ごすのも慣れっこなのか。

 自分の勝手な想像に胸がざわついたが、その理由を追求しようとは思わない。
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