俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 管制官は、ひとたび出勤すると退勤まで管制塔に詰めている人が多いと聞く。食事もそこで済ませる場合がほとんどのようで、同じ空港に勤務していても顔を合わせる機会は極端に少ない。

 おまけに俺たちパイロットと同様に、管制官の勤務は不規則になりがちだ。羽田(はねだ)空港なら夜勤もある。だから、飲み会に気軽に参加できるような状況にないのだろう。もしくは、興味がないかだ。

「真由香ちゃんみたいな、気遣い屋な子が嫁さんになってくれるといいよなあ」

 ぼやくように言った機長をチラリと横目で見て、すぐに視線を正面に戻した。

 この人とのフライトは、これで二回目になる。たしか俺より七歳上の四十歳で、独身だったはず。見た目は悪くないし、パイロットはそこそこ女性からの人気が高い職業だからモテないわけでもないだろう。

 それなりに出会いはあっても、そこから関係が続かないといったところか。

「そうですね」

 俺の返しが意外だったのか、隣から不躾な視線を感じる。それを、あえて気づかないふりをしてやり過ごした。

「ああ、結婚したいなあ」

 まだぼやき続ける機長に適当に返事をしながら、さっき耳にした彼女の声を思い出していた。




< 3 / 110 >

この作品をシェア

pagetop