俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 上機嫌でカトラリーや食器を用意していたタイミングで、玄関から音が聞こえてビクリと肩が跳ねた。

 一瞬フリーズした後に、家主を出迎えなければと慌てて玄関に向かう。

「ただいま」

 靴を脱ぎ終えた翔さんが、私の存在を認めてふわりとほほ笑んだ。

「おかえりなさい」

 甘さの滲んだ表情にドキリとする。

「いい匂いがする。夕飯を作ってくれたんだって?」

 廊下を進む彼にいそいそと続く。とりあえず、余計な事をするなとは言われなくてほっとした。

「その、食べますか?」

 勝手に用意をして、迷惑じゃなかっただろうか。彼にだって都合があったかもしれないと、今になって不安になってくる。

「もちろん。ありがとう」

 即答する翔さんに安堵して、まだつけたままだったエプロンを外した。

「真由香からの連絡を見て、楽しみにしていた」

 そんなふうに言ってもらえたら、作った甲斐があったというもの。

「仕事上がりに下心見え見えで食事に誘われたが、自宅で愛妻が料理を作って待っているからと、さっさと振りきれて大助かりだ」

「あ、愛妻!?」
「そうだろ?」

 なにも間違っていないだろと言わんがばかりに、あまりにも堂々と尋ね返されて絶句する。
 たしかに、偽装結婚に同意をした。それは間違いない。

 ただ、まさかもう動きだすとは思っていなかった。

 なにも言い返せずに口をハクハクさせる私を、翔さんが軽く抱きしめてくる。ひと際鼓動が大きく跳ね、ピキッと体が固まった。

「俺のために作ってくれて、ありがとう」

 顔の真横でささやかれて、思考も停止する。

「愛しの奥さん」

 額に優しく口づけた翔さんは、ようやく私を解放した。
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