俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 今のはもしかして、約束のご褒美だろうか。

 うろたえる私の横で、彼がすっと真顔になる。

「早速、桜庭(さくらば)さんに協力を仰いで、結婚したらしいと噂を広め始めた」
「え? あっ、そうですね。そういうお話でした」

 直前の甘い雰囲気はいっさいない。それをなんだか寂しく感じたのは、私の気の迷いだろう。

 桜庭さんとは、おそらく前に彼が話していた信頼できる上司だろう。
 翔さんは、人の目のある所で桜庭さんに結婚の報告をしたのだという。

 愛妻だなんて言われて浮ついている場合じゃなかった。翔さんは本当に困っていて、上司だって解決のために協力しているのだ。しかも偽装結婚なんて手段を取るくらいだ。相手に口頭で注意する程度では効かなかったのだろう。

 私も、彼のためにきちんと応えないと。

 そんなことをつらつらと考えていた間に、翔さんが再び距離を詰めていた。
 長身を屈めて、私の耳もとに顔を寄せる。気づくのが遅くて、その近すぎる距離を許してしまった。

「一秒でも早く、真由香に会いたかった」

 目を見開いて、ひゅっと息をのむ。それから、言われた言葉を理解してジワリと頬が熱くなった。
 彼の甘い言葉も近すぎる距離も、慣れる日なんて絶対に来ない。

「かわいい」

 きっと、顔は真っ赤に染まっているに違いない。

 私の頭を、彼がぽんぽんと優しく叩く。完全にからかわれているとわかっていても、強がりのひと言も返せなかった。

「着替えてくるから、一緒に食べよう」

 何事もなかったかのように自室へ去っていく彼の背中を、呆然と見送る。
 その切り替えの早さが、少しだけ恨めしかった。
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