俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 意味がわからなくて、再び彼に視線を向ける。

「俺のはこっち」

 そう言って、翔さんは小ぶりの箱を取り出した。蓋を開けて中を見せてくれたが、想像した通り指輪が入っていた。おそらく、私の手もとにあるものとおそろいなのだろう。

 指輪を手に取った彼は、ためらいもなく自ら左手の薬指にはめてみせる。

「結婚したというのなら、指輪くらいしていないとおかしいだろ? 真由香の方は必要ならはめてくれてかまわない。そうでなくても、ネックレスとして身に着けておいてくれるとうれしいかな」

 せっかく用意したのだから、日の目を見ないのはもったいないと言いたいのだろうか。

 再びネックレスに視線を落として困惑していると、立ち上がった翔さんがこちらへ近づいてくる。それに気づいて、慌てて箱をテーブルに置いた。それから両耳を手で押さえながら、座ったまま彼を見上げる。

「残念。学習してしまったか」

 そんな私を、翔さんがおかしそうに笑った。予想通り、また耳もとでなにかをささやくつもりだったらしい。
 ネックレスを手に取った彼は、指輪をすっと抜いた。

「サイズが合うか、確かめさせて」

 そう言いながら素早く私の左手を取り、薬指にはめてしまう。あまりの早業に、止める隙もなかった。

 異性に指輪をもらった経験なんて一度もない。
 これは単なる確認作業だとわかっているのに、喜びなのか焦りなのかいろいろとないまぜになった感情が膨らんでいく。

 かまわず私の手を持ち上げた翔さんは、角度を変えながらしげしげと眺めた。

「よかった。直す必要はないようだ」

 しばらくして、ようやく手を解放される。指にぴったりとはまったそれを、私もまじまじと見つめた。

 なにかと私に甘い言葉をささやいてくる翔さんだけど、すべて本気ではない。恋愛感情はいっさい伴っていないし、どれも演技だ。

 それなのに胸は高鳴り、自分でもよくわからない感情に支配されて落ち着かない。
 こんな高価なものなんて受け取れないと、返すのが正解のはず。

 でも困ったことに、特別な場所におさまったおそろいの指輪を前にしたら、拒否する気持ちが出てこなかった。
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