俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 気を取り直して、シンクに食器を運ぶ。
 とりあえず料理を気に入ってもらえてよかったと、安堵しながらスポンジを泡立てる。
 そういえばまだ指輪をはめたままだと気づいた。

「真由香は俺のものだ、か」

 すごいことを言われたと再認識して、恥ずかしさがよみがえる。

 声がいいだけに無駄に威力がすさまじくて、気持ちが伴っていないとわかっているのにときめいてしまった。
 結婚は今じゃないと梓とさんざん語り合ってきたというのに、こんなに簡単に揺さぶられるなんて不甲斐ない。

「翔さんのあれは、私へのご褒美だから」

 からかわれるのは、おもしろくない。
 でも多忙な身には癒しが必要なのだと、自身に言い聞かせるようにつぶやく。そうでもしていないと、彼のささやく言葉を本気にしそうになる。

 翔さんの甘い言動は演技でしかなく、協力する見返りだ。最初からそういう話だったと、浮ついた心を引きしめる。

 胸の奥が小さく痛んだのは、私の中に恋愛を求める気持ちがわずかに残っていたからなのだろう。決して翔さんに対してどうこう感じたわけではないと、曖昧な考えを振り払った。

「あれ? そういえば、今夜から一緒のベッドに寝るんじゃない?」

 ようやく落ち着いてきたところで、現実を思い出した。

「え、本当に?」

 そんな一大事を、すっかり忘れていた自分もどうかと思う。
 一緒に寝ると、はっきり返事をしただろうかと逃げ道を探す。

『私、翔さんの助けになるように、ちゃんと協力しますから』

 あの日のやりとりを振り返っているうちに、彼にそんな宣言をしたことまでよみがえってきた。

「大胆過ぎるでしょ、私」

 今になって恥ずかしくなり、記憶を振り払う。
 苦悩する彼を見ていられなかったのは事実だ。すごく心配で、解決のために協力するとも決めている。その気持ちに偽りはない。

「どうしよう」

 それでも、一緒に眠る覚悟はまだできていなかった。
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