俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「熱くないですか?」

「……ああ」

 遅ればせながら尋ねたところ、わずかにかすれた声が返ってきた。

 さりげなく見ると、翔さんは目を閉じていた。仕事上がりだし、彼も疲れていたのだろう。すっかりリラックスした様子に、思わず表情が緩む。

「はい、できましたよ」

 乾かし終えて、彼に声をかける。

「ん、ありがとう」

 閉じていた瞼が、ゆっくりと上がる。いつになく無防備な様子に、不覚にも胸の奥が小さく疼いた。

 うとうとしていたのか、とろりとした目と視線が合う。

「普段から、ちゃんと乾かさないとだめですよ」

 途端に恥ずかしくなって、ぶっきらぼうになってしまう。

「それなら、真由香がいるときはお願いしようかな」

 梓の言っていた通り、かすれた声もかなりいい。無条件にうなずきそうになったが、なんとか踏みとどまる。

「じ、自分でやりましょうよ!」

 自制心を最大限に発揮してそう言った私を、翔さんが残念だと笑った。

「私、お風呂に入ってきますから。ゆっくりさせてもらうので、翔さんは先に寝ていてくださいね」

 お願いだから、私がいない間に眠りについてほしい。
 寝入っている彼の隣にこっそりもぐり込むだけだと考えれば、一緒のベッドで過ごすハードルははるかに下がる。たぶん……きっと。

 本音を見透かすように目を細めて私を見つめた彼は、それからフッと笑った。

「真由香が来るのを、待っているから」
「で、でも、疲れているでしょうから早めに寝るべきです」

 それでは困ると、説得を試みる。少し必死になりすぎたかもしれない。
 ドライヤーを手にしたまま、焦って言い訳を重ねる。その間に、翔さんがすっと立ち上がった。

「だからだ。癒してくれよ、奥さん」

 一歩距離を詰めた彼は、そう言いながら私の肩に手を添える。お風呂に入って来るようにと、私の体を反転させた。
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