俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 ぎくしゃくとした動きで歩きだす。

 浴室に少しでも長くとどまろうと、時間稼ぎに全身をこれでもかというほど丁寧に洗った。
 広い浴槽を贅沢に使っていても、今夜はまったく落ち着かない。

「どうしよう」

 これ以上お湯につかっていると、のぼせてしまいそうだ。
 なにか仕事はないかと見回し、浴室の掃除を念入りに行った。

 観念してお風呂を出た後も、肌や髪の手入れにいつもより時間をかける。そうしている間に洗濯もして、とうとう本当にやることがなくなってしまった。

 ゆっくりとした足取りで寝室へ向かう。

 かなり遅くなったから、きっと翔さんは寝てしまっただろう。
 そうであってほしいと願いながら、音をたてないように慎重にドアノブに手をかけた。

 隙間から覗いた室内は、常夜灯が灯されていてほっとする。翔さんはもう眠っているようだ。

 緊張しすぎて損をしたなんて心の中で軽口を叩きながら、静かにベッドに近づく。彼が横たわっているのと反対側の布団の端をめくって、そっと乗り上げた。

「わっ」

 体を横たえたその瞬間。てっきり寝入っていると思った翔さんが、私をその胸もとに抱き寄せた。驚きすぎて素っ頓狂な声が漏れ出てしまう。

 なんとか抜け出そうと体を捩ってみたが、ビクともしない。そのうちに肩口に額を寄せられて、すりすりと擦られる。
 もしかして、寝ぼけているのだろうか。

 とにかくこの距離はよくないともがいたが、翔さんはそれに反抗するようにさらに体を密着させてきた。
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